仕事

名門大学から「整形靴職人」の道を選んだ31歳男性。「障害者が景色として馴染む」ドイツで腕を磨く日々

ドイツでは圧倒的に「街に障害者がいる」

山田英輝氏

学校の実習で製作した切断足用の中敷

――山田さんは脳性麻痺の当事者として整形靴を長年使用し、作り手に転身しました。ご自身が製作者となることで、どのような変化を起こせると考えていますか? 山田:もちろん一個人の力で法制度などを変えられるほど単純ではないことは私も理解しています。ただ、当事者の視点を持ちながら作り手としても仕事ができることは、整形靴を必要とする人たちの生の声を反映できる重要な役割を担えると思います。  またそれ以上に私が期待するのは、整形靴を取り巻く状況について知らない多くの人々が、私のような人間がメディアに露出することで問題意識を持ってくれることです。  私は「何でもかんでも海外に倣え」とはまったく思いません。ただ、ドイツに住んでいると、日本にいたころよりも、整形靴を履いた人を多く見かけます。義足も、車椅子も、歩行器も同様です。ドイツは圧倒的に「街に障害者がいる」んです。ごく普通に、何気ない景色の一部として街にいて、それを支えるものこそが「補装具へのアクセスの良さ」だと感じます。  もちろん日本においてもバリアフリーなどの徹底によって障害者が過ごしやすくなってきているとは思いますが、日本はいまだに補装具が手に届くまでたくさんのハードルがあって、それゆえに、本来は街にいられるはずの人が、街にいない。そこには、保険の制度の問題や手続きの煩雑さ、職人不足や学ぶ場の不足など、さまざまな課題があります。  たとえばドイツでは、日本でいう薬局のようなシステムで、処方箋さえあれば街中で気軽に整形靴を購入できます。ドイツにいるからこそ経験できる、そんな日常を、ある意味で私自身が「当事者×整形靴職人」のアイコンとなって、日本に発信していくことが、今現在の自分の役割だと感じています。情報があれば、問題意識を共有して真剣に考えてくれる人は大勢いるはずです。整形靴というものを知りもしなかった人が状況を知って、さまざまな問題を考えてくれることこそが、社会が前進する一歩になると思うんです。 =====  私たちは、あまりに知らないことが多い。“教育”のおかげで障害をもって生まれた人の苦労や家族の悲しみにはなんとなく寄り添えるようになったものの、実際に設計された制度の不備に無頓着である。そればかりか、当事者が不満の声を上げるまでに存在する幾多の障壁について想像しない。  山田氏の真髄は、徹底した当事者性にある。曖昧に生きればいくらでも目を背けられたとしても、決して自身が障害者であることを日常に溶解させない。思考する整形靴職人として、これからも先鋭的に道を切り開いていく。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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