初日から「もう無理」「辞めたい」医療現場ですぐに辞めてしまう新人と先輩の悲哀
多くの企業が新入社員を迎え入れる春。新卒はもちろん、転職してきた人たちで職場の空気は一変する。とはいえ、せっかく就職したにもかかわらず、すぐに退職してしまう人もいる。業務内容や職場環境が合わなかったなど、人によって理由はさまざまである。
とくに病院のような緊張感の高い職場では、新人の精神的負担は想像以上に大きい。そんななかでの教育・指導は、頭を悩ませる問題だ。今回は、わずか1週間以内で退職してしまった新人たちのエピソードを紹介する。
現在、15年目のベテラン理学療法士である田中健さん(仮名・30代後半)は、数年前にプリセプター(先輩としてマンツーマンで後輩を指導する係)として、新卒で入職してきたYさん(女性)を担当していた。
「Yさんは自己紹介で『患者さんの力になれるように頑張ります』と控えめに語っていました。白衣が少し大きく見えるほど小柄で、笑顔が可愛らしく、先輩の職員たちから好感を持たれていました」
入職初日は電子カルテの操作や職場ルール、感染対策などの座学研修が中心だった。2日目からは病棟での実地研修が始まり、OJT形式で先輩たちに同行しながら、リスク管理や実際の介助方法を学んでいった。
「配属は整形外科・内科混合病棟で、術後の離床支援やせん妄(意識の混乱)のある高齢者対応など、多様なスキルが求められる現場です」
3日目、Yさんは午前中のミーティング後に田中さんと一緒に移乗介助(要介護者を補助して、ベッドや車椅子などへ乗り移らせること)の練習をしていた。
「動作はややぎこちないものの、真面目に取り組んでおり、不安な表情を浮かべながらも一つ一つ確認していて、大丈夫そうだなと思っていたのですが……」
しかし、その日の昼休みにYさんは「少し体調が悪いので今日は早退します」と言って帰宅した。そして夕方、携帯にまさかの連絡が入る。
「すみません。明日から出勤できそうにありません。もう続ける自信がありません」
突然の退職希望に動揺を隠せず、上司が改めて本人に確認を取った。だが、Yさんの返答は「現場が怖くて、自分には合わないと思いました」というものだった。
その後、正式な退職届が提出され、制服やIDカードは後日郵送で返却された。わずか3日での突然の退職に、田中さんを含む病院スタッフは大きな衝撃を受けた。
田中さんたち職員は、何がYさんにとって負担だったのかを話し合った。そこで判明したのは、Yさんが学生時代の実習で急性期病院を経験しておらず、回復期や老健(介護老人保健施設)といった比較的落ち着いた環境しか知らなかったという事実だった。
「目の前の患者が急変する可能性や、1日10~20名近い患者の離床支援を行う現場の忙しさ、医師や看護師との連携のプレッシャーは、彼女にとって想像を超える世界だったのかもしれません。私自身、もっとこまめに声をかけ、業務の進め方を丁寧に教えていればと強く思いました」
Yさんのようなケースは決して稀ではなく、医療の現場における「入り口支援」の重要性を改めて考えさせられた出来事だったという。
3日目で「もう続ける自信がありません…」

※写真はイメージです。以下同
新人教育の難しさと「入り口支援」の重要性
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編集者・ライター・旅行作家。コンビニへの買い出しから、芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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