更新日:2025年10月10日 19:07
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高市早苗氏の「ワークライフバランス捨てる」発言を称賛している人が見えていないもの

 ライフを犠牲にしたハードワークの行き着く先は何なのでしょうか? 国のトップによるメッセージに込められた空疎な熱意の正体を考えます。

「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」発言が波紋

高市早苗新総裁

会見する自民党の高市早苗新総裁 写真/産経新聞社

 自民党の高市早苗総裁の「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」との発言が波紋を広げています。  国家のために私心を犠牲にして働くことを誓う意図があったものと思われます。ところが、これが社会全体で労働環境の改善に取り組む時代に逆行していると批判を集めているのです。  10月6日には、『過労死弁護団全国連絡会議』も「政府が推し進めてきた健康的な職場づくりを否定し、古くからの精神主義を復活させるもの」との声明を発表し、発言の撤回を求めています。  ネット上でも、“トップ自ら休みなく働くと言われたら、下の者もそうせざるを得なくなる”と懸念する声が多く見受けられました。  一方で、高市総裁の思想や政治信条に共鳴する人たちや、起業家やインフルエンサーからは賛同する声が上がっています。“高市さんのような気合いのある人が少なくなったから日本がダメになった”とか、“国民にもそうしろと言っているわけじゃなくて、それぐらいの覚悟があるということ”と、新総裁にエールを送っていました。

賛否の根底にある“共通の構図”

 高市総裁の思想的な立場もあり、ネット上では賛否双方が激しく対立している状況です。しかし、お互いの意見には共通点もあります。過酷な労働とクオリティ・オブ・ライフがトレードオフの関係にあると見ている点です。  つまり、高市総裁の発言に否定的な人たちは、過剰な労働によって良質な人生が失われてはいけないと主張する。高市総裁に共感する人たちは、良質なプライベートライフを追求することを多少犠牲にしてでも仕事に付加価値を与え、成長し続けることこそが豊かな国家の建設へとつながっていくと考えている。  仕事を必要悪の負荷や修行ととらえるか、人生で至高の使命と捉えるかの違いがあるだけで、実は表裏一体の関係だと見ている点では同じだと言えるでしょう。
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仕事に熱中していれば、自分自身と向き合わずに済む
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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