「妻が家事をする必要はない」深夜残業に疲弊した34歳元広告マンが、フリーランス兼主夫になって見つけた“生きやすさ”
「この後、18時までには保育園に子どもを迎えに行きたいんです」
ある日の正午、都内で取材が終わった後で、その場に同席していた男性が発した言葉に一瞬、耳を疑った。「お迎えで仕事を上がるため」ではない。その男性――吉岡茂樹さんが、東京ではなく大阪に住んでいたからだ。たとえ出張中であっても「家庭の締め切り時間」を死守するのは、吉岡さんが家事と、6歳になる娘の育児を担う「フリーランス兼主夫」であることによる。
‘26年4月現在、吉岡さんは障害者雇用事業の立ち上げと、様々なバックグラウンドを持った人材同士が交流する共創施設の組織開発・実務支援に関する仕事を、それぞれ別の企業から業務委託契約として請け負っている。このほか、教員の複業やキャリア形成を支援するNPO法人の運営にも携わっているが、こちらは無償。すべて合わせると、月の収入は25~30万ほどになる。妻は一般企業で総合職として働いており、共働きで生活をしていく分に、特段の不自由は感じていない。
大学卒業後は広告代理店など計3社に8年ほど在籍し、ウェブ広告のデータ分析などを行っていた。28歳のとき妻の妊娠が発覚。育休を取ったことをきっかけに将来を考え直し、’24年4月からフリーランスに転身した。女性の場合、育児と仕事の両立を考慮して正社員からフリーランスへと転身するケースはしばし聞くが、男性が同種の選択を行うことは珍しい。どのような試行錯誤を経て、現在のスタイルに辿り着いたのかを聞いた。
吉岡さんの1日は、朝7時半起きて子どもを保育園に送るところからスタートする。10~17時は「ワーキングタイム」として確保。この前後の時間帯には仕事を入れないように調整し、保育園へのお迎え、夕食の準備、子の寝かしつけなどをこなしていく。
「掃除、料理、洗濯、遊び、お風呂と寝かしつけなど、全ての家事と育児はお互いワンオペで引き受けられるようにしています。妻が仕事やプライベートで家を空ける時もありますが、いつも苦もなく家事と育児をしています」と語る。
大学時代、頭蓋骨内での圧力が高まり脳全体を圧迫する「頭蓋内圧亢進症」という病気にかかり、3回手術を行ったのちに、右目を失明した。左目はぼんやりとは見えているが、今も弱視の状態だ。就職活動では当初、コンサルティング会社や人材会社を一般枠採用で受けていたが、内定が出なかった。両親の薦めもあって、障害者採用枠で大手アウトソーシング企業に入社。選考時は人事部門に配属予定だったが、自身の希望で広告事業部に移り、検索連動型広告の運用やデータ分析に関する業務を担当した。

吉岡茂樹さん。京都市河原町にある共創施設にて
「ワーキングタイム」以外は家事に邁進

吉岡茂樹さんと愛娘(写真=本人提供)

退院後に仲間が開いてくれた祝いの会(写真=本人提供)
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
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