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中国臓器密売施設「ドナーハウス」の衝撃

ドナーハウス

※画像はイメージです

 iPadやiPhoneの購入資金を得る目的で、若者がいとも簡単に腎臓を売ってしまったり、はたまた子供が誘拐された挙句、腎臓を奪われてしまったりといった事件が相次いでいる中国。その裏側にあるのは、移植用臓器の慢性的な供給不足だ。現在中国で、腎臓移植を待つ患者は100万人近く。しかし過去1年、国内で合法的に行われた腎臓移植手術は4000例に満たないのが現状だ。そんななか、大金を積んでも腎臓を手に入れたい者と、カネのために腎臓を売りたい者とを結ぶ臓器密売ネットワークは拡大の一途をたどっている。  そこで中国ニュースサイト『騰訊新聞』の記者は、腎臓提供希望者を装い、移植仲介者と接触。提供者たちが移植手術までを過ごすアジトへの潜入取材に成功した。その記事を以下に抜粋して紹介する。  口コミ情報をもとに電話で連絡を取り合ったのち、浙江省杭州駅で落ち合った移植仲介者は、記者に対して簡単な本人確認を済ませると、早速“ドナー”たちが暮らすアジトへと案内したのだった。杭州市内のごく普通のマンションの一角にあるアジトは、4LDKで、うち3部屋は2段ベットが並べられ、移植を待つ18人のドナーが暮らしていた。
ドナーハウス

臓器摘出を待つ18人の人が住む家 (C)news.qq.com

 高利貸しから借りた金が返せず参加している厦門出身の李。石家庄からYAMAHAのバイクの購入資金を得るためここにやって来た紀。怪我をさせてしまった仕事仲間への慰謝料6000元を稼ぐためにやって来た甘粛省出身の李、「肉親に少しでもいい暮らしをさせるためにカネが必要」と話す安徽省出身の陶。そして腎臓を売る理由を決して話さない深セン出身の唐……。ここへやってきた理由は様々だが、共通するのは、みな自主的にここにやって来たということと、20代の若者であるということだ。  さらにもう一部屋には移植仲介者が住んでいる。ドナーたちから「リーダー」と呼ばれる彼は、移植手術前の精密検査に一人を参加させると臓器密売組織から500元の報酬を得ることができ、さらに手術が成功すれば3000元の報酬を手にすることができるのだという。  彼もかつてはビジネスに失敗して20万元あまりの債務を背負っていた際に腎臓を売った。そのあと、密売ネットワークに加入しブローカーの一員となった。
ドナーハウス

親孝行のため、バイク代のため、慰謝料のため……それぞれに理由がある (C)news.qq.com

 ドナーたちは、自らに適合するレシピエント(腎臓の被移植者)が見つかるまでの1~3か月の間、ここで奇妙な共同生活を送ることとなる。レシピエントが見つかれば、すぐにその病院へと移動し、移植手術を受けるのだ。  それぞれの事情でこのアジトへとたどり着き、一つ屋根の下で暮らす彼らは、互いに多くを語らないものの不思議な連帯感が感じられたのだった。  アジトの窓ガラスには、目張りとして古新聞が張られていた。その中の一枚に、2012年5月8日付の「江蘇省で大きな臓器売買組織が摘発され、20人の青年が救出された」というニュースがあった。その新聞を見つけたあるドナーは言った。「こんなの救出なんかじゃない。我々にとってはいい迷惑だ」  リーダーの話によると、こうしたアジトは北京や南昌、鄭州、東莞など全国に及んでいるという。腎臓の闇市場では、レシピエントは移植の対価として20~50万元を支払うが、腎臓の提供者であるドナーたちが受け取るのはわずか3.5万元のみ。この相場は全国どの業者でもほぼ一定なのだという。  体の一部を売り渡すことで得られるこの対価について、安いか高いかは意見が分かれるところだろう。しかし、移植手術までアジトで過ごす時間が1~3か月、さらに術後の回復が遅れれば、再び社会復帰できるまでに職を得られるまでに3か月以上かかるとのこと。その間、腎臓を売ることなく月収3000元で地道に働いた場合と、それほど違わない計算になるのだが……。  鄧小平が、上海から深センに至る沿岸部都市を歴訪した「南巡講話」で、社会主義市場経済の導入構想を打ち出してからちょうど20年。市場原理は、文字通り人民の五臓六腑にまで染み渡る結果となったわけだ。彼は「可能な者から先に裕福になり、落伍者を助けよ」という、いわゆる先富論も説いたがが、持たざる者が富める者に内臓すら差し出す現状を見て何を思うだろうか……? 【取材/ドラゴンガジェット編集部】 ガジェット好きのライターや編集者、中国在住のジャーナリストが中心メンバーとなり、2012年1月から活動を開始。東京と深セン、広州を拠点に、最新の話題をお届けする。
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