この世から「女」が消える日が来る!?
女性のいない世界』(マーラ・ヴィステンドール・著、大田直子・訳、講談社)である。 100人の女子に対してどれだけの男子が生まれるか――これを表すのが、「出生性比」と呼ばれる数値だ。自然な状態での出生性比は「105」。一方、実際の出生性比を見てみると、中国が「113.3」、インドが「112」、日本は「106」(CIA, The World Factbook 2010より)。中国の場合、自然な出生性比との差はたった8であり、大きな問題ではないと思えるかもしれない。しかし、この差を具体的な人数に置き換えると問題の大きさが見えてくる。 本書で紹介されている、パリ人口開発研究所のクリストフ・ギルモトによる’05年の研究によると、もしこの過去数十年間、自然な性比が維持されていたら、アジア大陸だけでもあと1億6300万人の女性がいた計算になる。つまり、現在のアジアには自然な状態と比べて、日本の総人口よりも多い数の女性が不足しているということだ。 ギルモトは、’92年に人口統計学の調査でインドを訪ねた際、現地の養護施設にいるのがほとんど女の子であることを知る。この地域では女の子ばかりが捨てられ、家庭から放り出されていたのだ。この体験をきっかけに出生性比の研究へと足を踏み入れたギルモトは、研究を進めるたびに新たな驚きと出くわすことになる。捨てられる以前の問題として、女の子が生まれる数が極端に少なかったのだ。また、このような男女比のアンバランスはインドの一地方の問題ではなく、’80年代には韓国、台湾、シンガポールの一部で出生性比が109を越えるなど、多くの地域に広がっていた。 本書の中で、膨大な調査を元に著者は、“女性のいない世界”の驚くべき実態に迫っていく。その世界では、女性の希少性が増し、地位が向上すると考えるかもしれないが、現実はその正反対である。女性がいない世界では売春が増え、貧しい国へ嫁を買いに行く男が増え、嫁を買いに行く余裕のない貧しい 国ではパートナーの見つからない若い男性が増える。そこは、女性が金銭で売買され、若い独身男性が犯罪を繰り返す世界である。コロンビア大学の研究によると、中国では出生性比1%の増加がその地域の犯罪率を5~6%引き上げているという。 男性過剰はエネルギー・食料資源の枯渇、未知のウイルスによるパンデミック等と同様に、ローカルな問題ではなく、世界的な問題である。男女比アンバランスの問題がその他の諸問題と最も異なるのは、それが近い将来やってくるものではなく、既に世界を蝕んでいるものであるということと、その問題に注意が向けられていないとうことだ。本書は、今ここにある問題に対する著者の怒りの一冊である。 <レビュー/村上 浩(HONZ)> ★このレビューの全文はこちら⇒http://honz.jp/12353 【HONZ】 厳選された読み手が、何冊もの本を読み、そのなかから1冊を選び出して紹介するサイト。小説を除くサイエンス、歴史、社会、経済、医学、教育、美術などあらゆる分野の著作を対象としている(http://honz.jp/)この数十年間で、アジアで生まれる女性の数が極端に減っている……という事実をご存知だろうか。女にモテないとか、出会いがないとか、そんなレベルの問題じゃない。現実問題として、この世から女がいなくなる――そんな恐怖のシナリオを描き出すのが、今回ご紹介する『
『女性のいない世界』 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ |
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