杉田成道(演出家・映画監督)インタビュー【前編】
フジテレビのディレクターとして『北の国から』を手がけ、 「ドラマの帝王」の異名を取る杉田成道が、このたび自伝小説『願わくは、鳩のごとくに』を上梓。57歳のやもめ男が30歳も年下の女性に押しかけ女房され、還暦過ぎて3人の子供に恵まれる……という仰天の家族ドラマを自らネタにする「演出家の性(さが)」に迫る
テレビドラマ『北の国から』シリーズの演出家、映画『ラストソング』や『優駿 ORACION』の監督として知られる杉田成道は、57歳のときに30歳下、つまり27歳の女性と結婚した。その顛末と、その後、子宝に恵まれて生きる日々を描いた自伝的小説(1)『願わくは、鳩のごとくに』では、3人の子供の誕生と家族の死など、生と死が交錯する彼の人生が、大ヒットドラマの裏話や俳優たちの逸話とともに語られる。読みだしたら止まらない、波瀾万丈の物語だ。
――30歳も年下の女性から惚れられるというのは、どういう気持ちなんですか?
杉田 あんまりうれしさはないね。どっちかっていうと「参ったな」のほうが強いですね。
――好きになる、という感情はあるわけでしょう?
杉田 うーん、好きな感情とも違いますね(笑)。それでも、結婚というのはするんです。人生なんて成り行きで、自分の意思で動かせるようなら苦労しませんよ。
――最新監督作品の(2)『最後の忠臣蔵』でも、役所広司さん演じる赤穂浪士の生き残りが、桜庭ななみさん演じる16歳の少女に思いを寄せられて、参ったなという顔をしますね。
杉田 自分を投影したわけではないですけど、まあ、若い娘に惚れられたら、中年の男はみんなそういう顔をするんじゃないですか(笑)。そんなにロマンティックなもんじゃない。
――そうハッキリ言われると、奥様も複雑ですね……。
杉田 それはあいつもわかってるから。この本を書くときも、どうしても二人の馴れ初めを入れなくちゃならないわけで、女房に「書いてもいい?」って聞いたら「いいわよ」と。ただし「変に書かないでね」と言うので、「よくは書けねぇよ」とクギを刺しておきました(笑)。初めのほうは、少し書いたら女房に見せて「このへんでよろしゅうござんすか?」と許可を得ていたんですけどね。
――奥様から直しの要求は?
杉田 それは毎回、必ずいくつかありましたね。でも、主にちょっとした事実関係ですよ。「医者は絶対にこういう言い方はしない」とか。
――奥様はお医者さんとか。プロの編集者も顔負けですね。その後、1男2女、3人のお子さんが誕生したわけですが、生活はいかがですか?
杉田 前妻との間に生まれた長男のときは、お風呂も入れたことなければ、本当に何もしたことがないんですが、今は大変ですよ。長男には悪いことをしましたけどね。今日も一番に起きて、朝ごはんを作って、子供たちを起こして、それで奥さんを起こして……。で、奥さんは今日も起きない(笑)。
――3人目ができたシーンは、本書の中でもとても印象的です。なんと奥様に(3)「ほんとに、俺の子か――」と詰め寄るという……。
杉田 いやあ。実際、記憶になかったものでね(笑)。ウソだろ?みたいな感じ。知人には「お前、よくここまで書くなぁ」って言われたけど、実は、そんなに重い話じゃない。書きたかったのは、その先の、高校時代の友人に言われた、「いいじゃないか――誰の子だって――」という名ゼリフ。自分としては、あれがとてもおかしかったんですよ。そうか、孫だと思えばいいんだってね。孫と思えばかわいいに決まっている、と。
(1) 『願わくは、鳩のごとくに』
「60歳の育児日記を戯文のように綴った年賀状」が各方面にウケたのがきっかけで執筆開始。
『en-taxi』23~27、29、30号にて連載(小社刊/1470円)
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(2) 『最後の忠臣蔵』
赤穂浪士の吉良邸討ち入り事件で大石内蔵助率いる四十六士が切腹して主君に殉じたなか、ひそかに生き残った2人の男の物語を描く。討ち入り前夜に姿を消した瀬尾孫左衛門(役所広司)には、大石の隠し子である16歳の娘、可音(桜庭ななみ)を育て上げるという密かな使命があった――’10年12月18日より、丸の内ピカデリーほかにて全国公開。公開を記念し、時代劇専門チャンネルでは’10年12月に《「忠臣蔵」祭り》を放送
(3) 「ほんとに、俺の子か――」
本作のなかでも傑作なシーン。このセリフの後、「産まれてくる子をよく見てみなさいよ! あんたとそっくりの顔してるわよ!」と、夫人の応酬が続く
― 杉田成道(演出家・映画監督)インタビュー【1】 ―
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