豊﨑由美『執筆陣が楽しみながら書いてる雑誌は、読んでても楽しいです』

執筆陣が楽しみながら書いてる雑誌は、読んでても楽しいです 選者:豊﨑由美
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’61年生まれ。書評家。『そんなに読んで、どうするの?』『正直書評。』ほか著書多数。 好きだった雑誌は初期の『SWITCH』『本の雑誌』『噂の眞相』 今の既成の雑誌はとにかく売れなくなってるから、読者の顔色ばかり窺ってますよね。私が大嫌いなのは付録つきの雑誌。ある種、雑誌であることを放棄してると思う。そんななかで私が選んだのは、この時代に何を伝えたいか、何が好きなのかを明確にしてる雑誌です。  まず『生活考察』は今、生活がままならなくなってる人が出てきているなかで、「生活について考える」という着眼点が素晴らしい。発行人も若いのに志が高い人で。そこを意気に感じて、決して原稿料は高くないのに執筆陣も楽しみながら書いてる。雑誌としてすごく理想的だし、実際に読んでても楽しいんです。同じ個人誌だと、北尾トロさんの『レポ』は、昔のように軽いルポを書く媒体がないと感じたトロさんが、「だったら自分で作っちゃおう」と立ち上げた雑誌。その行動力は本当に尊敬するし、応援したいと思うんです。  文芸誌で最も注目しているのが『真夜中』。長島有里枝さんや石川直樹さんなど、今でこそ評価を受けてる人たちをいち早く見つけてきた目利きぶりがすごいなと。ほかの文芸誌にはない個性がありますね。文芸カルチャー誌の『IN THE City』も執筆陣の目のつけどころがいい。写真やイラストの使い方もセンスいいし、見た目がペーパーバックっぽくて日本離れしてるとこもカッコイイ。  メジャー誌の中で熱烈推薦したいのが『POPEYE』です。最近のファッション誌はカタログ的な見せ方が多いけど、『POPEYE』は単なる商品写真でなく一つ一つが作品になってる。なおかつ「こういうの着てみたい」って憧れるわけですよ。作り手の「ファッションを提案してるんだ」という気概が見て取れる。また、何気に読み物ページが面白いのもポイント。  私も学生の頃なんかは発売日を心待ちにしてる雑誌がありました。若いときって無知だから、雑誌からの情報は何でも憧れてた。だからこそ、今の若い人にもレベルの高い雑誌を見せてあげたいんです。そしたら10年後にセンスのいい大人ができあがるわけでしょ。雑誌が人材を育ててるんですよ。  ネット上で雑誌を展開するようになればコストダウンになって、今より安く読めるようになるかもしれない。商品でも360度から見られるようにもなるのかも。でも、実際に手にしたときの重みや紙の感触なんかも含めて楽しむのが雑誌や本だと思うんです。もし今後滅びてゆくようなことがあっても、私は紙の雑誌に関わっていきたい。自分が紙の雑誌に育ててもらったから、恩返しも紙の雑誌にしたいんですよ。(談) 『生活考察』
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編集・発行/辻本力。「〈生活と想像力〉をめぐる雑誌」。 執筆陣は、春日武彦、佐々木敦、岡崎武志、速水健朗、福永信、栗原裕一郎、長嶋有ほか 『レポ』
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発行/ランブリン。「人生の役に立たないノンフィクション」を提供する季刊誌。 霞流一、えのきどいちろう、グレゴリ青山、乙幡啓子らが執筆 『真夜中』
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発行/リトルモア。読み物だけでなくビジュアルも充実の季刊誌。 「とにかく、まだ手垢のついてない文才のある人を見つけてくる力に脱帽」(豊﨑氏) 『IN THE City』
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発行/ビームス。創刊号の執筆陣は片岡義男、星野智幸、阿部和重、中原昌也ほか。 「今、片岡さんを持ってくるセンスがいい。出し続けてほしい雑誌です」 『POPEYE』
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発行/マガジンハウス。若者雑誌の元祖的存在。「読み物ページも充実。 ゲーム作家に書評を書かせ、私にファッションについて書かせるという発想も面白い」 ― この雑誌がすごい! ベスト30【3】 ―
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