もし、残念な人が『論語』を読んだら【その3】
「貸したお金を『返して』と言えません。また、その友達のだらしなさにイライラします。でも、うまく注意できません」
僕が舐められてるのか、友人が貸した1万円をなかなか返してくれないんです!
「難しいな(笑)。『子曰わく、辞は達するのみ』でどうだい。”言葉や文章表現はわかりやすく簡潔が一番”。つまり、返してよ、とストレートに言えばいいんだよ」
いや、先生。というか、孔子様。それができれば悩まないわけで。
「じゃあ、『子曰わく、知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず』。”賢い人間はそんなことでガタガタと不満を持たない”ということだね。まぁ、1万円はすっぱりあきらめろ、と(笑)」
そんなあ~。ちなみにこの友人とは同居中で、彼のズボラさにも困っているんです。コンロの火を消し忘れたり、家賃を滞納したり。たまに注意しても反省している気配すらなし。あまり言いすぎるとこっちが悪者みたいになるし……。
「君子は人の美を成して、人の悪を成さず。小人は是れに反す」。訳すと”大人物は人の長所を伸ばし、欠点をなくす手助けをするが、ケチな小物はその逆ばかりをやる”となる。友人の欠点を正すつもりで助長させてないかい?」
で、ではどうしたら友人の欠点を直してあげられるんでしょう!?
「その考え自体を捨ててもいいかもしれないよ。『唯だ上知と下愚とは移らず』は”とびっきりの天才ととびっきりの怠け者ばかりは、教育によっても変えようがない”と訳せる。一見突き放しているようだけど、実は相手を大きな懐で受け入れた言葉なんだけどね」
それなら、できるかも。ダメ人間だと思えば腹も立たないし。
「相手を思うことを忘れちゃいけない。”自分を責めるときは厳しく、他人を責めるときは寛大にすれば、人から逆恨みされずに済む”という意味の『躬自ら厚くして、薄く人を責むれば、則ち怨みに遠ざかる』なんて言葉もあるからね。どうしても叱りたいのなら、『苟に仁に志せば、悪まるること無し』。”慈愛の心から叱っていれば、どんなにきつくても恨まれることなんかない”ことを忘れぬように」
相手のことを思いながら叱る? 余計にストレスたまりそうだ。
「まぁ、あまり完璧を求めすぎないことだね。孔子の教えではバランスのよさを表した『中庸』という言葉が重要なんだ。『過ぎたるは猶お及ばざるがごとし』は”いい加減が大事だよ”、『備わるを一人に求むること無かれ』は”自分にも他人にも万能を求めてはいけない”と訳せる。今の日本は人に完璧を求めすぎたり、すぐに切り捨てたりするから、みんなケチくさくなっちゃってるんだよ」
友人のようにいい加減な生き方もありだろうし、僕もそれを適当に流せばいいのか。よし。これからは一層いい加減になるぞ! って、僕、なにか間違ってますか?
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