神保哲生「横並びの報道に被災者の知りたい情報はなし!」
【神保哲生氏】 ビデオジャーナリスト
即座に被災地に飛んだビデオジャーナリスト
’61年生まれ。米国の報道機関の記者を経て’94年に独立。’00年1月、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任
地震当日に東北に向けて車を走らせたビデオジャーナリストの神保哲生氏。自らが主宰する「videonews.com」にて現地リポートを発表したり、リアルな空気を追求する姿には定評がある。そんな現場主義の神保氏だが、各メディアの報道姿勢に違和感を抱くという。
「阪神淡路大震災のときも同じですが、震災となると、まず数字が報道される。死者何百人、行方不明者何千人と数字ベースの情報が次々と報じられます。恐らく政府の発表を垂れ流しているだけなのでしょうが、これによって数字で災害の規模が判断されるようになってしまう面がある。災害というのは実際は数字には表れない、現実の積み重ねです。次がその反動なのか、やたらハートウォーミングな話題として、被災地で頑張っている人の話やボランティアのお涙ちょうだい話になります。これは各社どこもそうでしたね」
報道の仕方に問題があるということではない。各社横並びで同じ切り口でしか報道しない姿勢に問題があるというのだ。
「今回メディアが問われたのはジャーナリズムの質の問題。本来、ジャーナリズムは自分たちが取材したものを、自分たちの切り口で報じるもの。それなのに日本の報道機関はどこを見ても同じような内容です。普段から記者クラブで官製情報を垂れ流していることの弊害ですが、それ以外にも報じるべきことはたくさんあるはず」
横並びの報道によってこぼれてしまう情報がどれだけあるか。
「被災者が欲しい情報は、身内の安否や食料が配給される場所などローカルな情報。そもそも、日本は大手メディアの資本の集中によって小さなメディアが育ちにくい。しかし、今回は気仙沼などにローカルのFMラジオ局が開局しました。被災したら情報にアクセスする手段がないのに、大手メディアは被災したときに情報を伝える術を講じてきませんでした」
それは原発事故の報道でも同様。
「原子力の専門家が何人も解説していますが、彼らは原子力の研究を今後も進めていきたい人たち。『原子力は安全だ』というバイアスがかかって当然です。一つの意見としては妥当でも、中立的な意見ではない。彼らの解説を鵜呑みにするべきでないのは自明なはずです。なのに別の視点で原発を語る人があまりに少ない」
神保氏は京都大学原子炉実験所の小出裕章助教など、専門家を積極的に招いて激論を交わしている。これまでの日本の社会は情報にしても、防災にしても、エネルギー政策にしても、政府やメディアに任せすぎたと神保氏は言う。
「その”任せる社会”も今回の震災で限界に来た。今後の日本は、一人ひとりが原発を推進していくか否か、TV・新聞だけの情報に頼っていいのか、この国はどういう方向に進むのかということを自分自身で考え、行動すべきです。自分たちで積極的に”引き受ける社会”に変わっていかないとダメだと思いますね」
それこそ民主主義の本当の姿。受け手側の姿勢が問われている。
◆メディアとの接し方
情報発信はお上に任せて思考停止するのではなく自分で考え、行動を
【TV】NHK「クローズアップ現代」3/22 O.A.より
「釜石市の鵜住居小学校の児童全員が自主的に逃げて助かったという話は、僕が最初に録ったと思ってたんです。そしたら1週間前(3/21)に報道されていたといわれました」と神保氏。現場にいると、なかなかほかの報道を目にする機会がないのだ
【ネット】videonews.com
ご自身では挙げなかったが、氏が主宰する放送局がこちら。「3月は被災地と東京を5往復し、避難指示エリアの1.5km圏内まで行った。僕自身すでに1年半分の放射線を被曝してるよ」
【ラジオ】けせんぬま さいがいFM
3月22日、気仙沼市に開局したローカルラジオ局。安否確認の情報、電気・ガス・水道等のライフラインの復旧状況、行政機関からの情報などを放送
震災報道[アテになるメディア]判定会議- 【2】
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