ポジティブ思考は不安を一時的に消すだけのカンフル剤
―[「ポジティブ」という病]―
巷に溢れるポジティブシンキングのススメ。確かに、前向きであることは悪いことではない。が、過ぎたるは及ばざるが如しという言葉もあるわけで。各分野の知識人に“ポジティブ病”の原因と処方箋を伺った
◆「ビジネス論」から考えるポジティブのワナ
「ポジティブ思考自体に問題はないんです。問題なのは、仕事のパフォーマンスの問題解決を、やる気やモチベーションだけに求めてしまうことです」
そう語るのは『モチベーションで仕事はできない』などビジネス書の著書も多い、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏だ。
「前向きに“考えた”としても、それは仕事に対する“行動”ではありません。成果を上げたい、結果を出したいというなら、気持ちのありようを考えるより、仕事を行動に分解してみたほうが早い」
行動に分解するとは、例えば、気が重い営業に行く場合、その工程を「電車に乗る→階段を上る→歩く→エレベーターに乗る……」といったようにプロセスを細かく分解して考えることだという。
「そうすると、ひとつひとつの行動は些細なことであり、『できない』のは、ただ単に『やっていないから』ということがわかる。やる気がないとか、モチベーションが上がらないといった感情は、漠然とした不安の表れでもある。ポジティブ思考という高揚感は、その不安を一時的に消してくれる効果はあります。が、決して、直接の問題解決にはならない」
それでも巷間、モチベーションアップだの、ポジティブ思考だのがもてはやされるのは、「精神論には勝ち負けがないから」だと坂口氏は指摘する。
「うまくいかないのを気持ちのせいにすれば、いつまでも同じことをやり続けられますからね。また、目指すべき目標が明確でなかったり、そこに至る具体的なプロセスが見えなかったりする場合も、精神論に頼って、ごまかしがちです」
つまり、ポジティブ思考はあくまで一時的な心の癒し。問題解決の糸口どころか、成功への道筋を示すものではないというのか。
「よく言われることですが、成功には理由はなく、失敗には理由がある。成功というのは、煎じ詰めると、その人がたまたま成功したというだけ。対して失敗には明確な理由があります。従業員を雇いすぎた、ビジネスモデルが悪かった……など、失敗から学べば、それは気持ちの問題ではなく、具体的な技術や知識の話になります」
その技術とは、資料作成やショートカットキーを覚えるなど、些細で地道なことも多いという。
「劇的に変わる!と思わせて、できないのが成功法則。知識や技術は大きな変化は見えなくとも、その人の能力は確実に1%改善する。地味な話になりますが、1%を100個積み上げることは、確率がわからない“気持ち”に賭けるよりよほど確実です」
不慣れな“ポジティブ”思考は、あくまでカンフル剤と心得るべし。
【坂口孝則氏】
未来調達研究所所長。アジルアソシエイツ取締役。コスト削減のコンサルタント、調達業務研究家、物流コンサルタント。メルマガ『ほんとうの調達・購買・資材理論』執筆者。著書に『野比家の借金』ほか多数
― 「ポジティブ」という病【6】 ―
―[「ポジティブ」という病]―
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