被災地に入り込んだドラッグプッシャーの誤算
震災直後から被災地に入り、被災者を相手に一儲けを企んだ犯罪者たち。こうした震災犯罪の手口を週刊SPA!ではこれまで何度も報じてきた。そして東日本大震災から2年が経過した現在、復興途上の東北の地で、彼らは暗躍し続けているのだろうか。取材を進めていくと、当時、真っ先に被災地入りした犯罪者たちの間には明暗がはっきりと分かれていた!
【覚せい剤プッシャー】需要は急速に縮小。代わりに台頭した処方系が蔓延!
「震災直後よりも、今のほうが顧客数は増えている気がする」
そう語るのは、違法薬物マーケットに精通する暴力団関係者のG。仮設住宅などに住む被災者、震災でPTSDとなった人に違法ドラッグが売れるのは、阪神淡路大震災で実証済み。そのため、東日本大震災でも多くのプッシャーがドラックを携え、被災地に向かった。
「真っ先に向かったのは、覚せい剤のプッシャー。パチンコ店の駐車場や路地裏、車の“窓渡し”で売るんだけど、顧客は高校生や20歳前後のキャバ嬢とか若い層からジジババまで幅広かった。関東や関西で売れ残っていた粗悪なシャブを売りさばき、在庫処分できたと言っていたね」(G)
しかし、覚せい剤需要は急速に縮小。現在も覚せい剤を東北向けに卸すルートはあるものの、わざわざ被災地で行商するプッシャーはほとんどいない。その理由は、もともと東北沿岸部には港湾労働者や漁業関係者を対象に覚せい剤を売りさばいていた地元の密売業者があり、そこが復活したからだ。
「被災地外から売りにきたプッシャーが拉致され、船で沖に連れていかれて福島第一原発のシルトフェンス(汚染水の拡散防止フェンス)の中に捨てられそうになったという都市伝説みたいな逸話もある。一方で、仙台に脱法ハーブ屋が増えたのも、別に震災に関係なく、地元の若いのが流行でやりだしただけみたい」(同)
覚せい剤マーケットが収束していくなかで、逆に台頭する薬物もある。現在も大きなマーケットになっている処方系ドラッグ(精神安定剤や睡眠導入剤)だ。
「東北にシャブ屋はいても、眠剤のマーケットはなかったからね。覚せい剤とは比べ物にならないほど単価は安いけど、使用するには合法だからユーザー数が多い。しかも、眠剤中毒者は毎日消費してくれるんですよ。早いプッシャーは避難所がまだ人で溢れ返っていた頃から食い込んだ。避難所生活では、眠剤がなかったら、まず寝られないからね。そこで足場を作って、今ではそれこそ高校生から高齢者まで口コミで満遍なく売っている。売り場も被害が酷かった沿岸部だけではなくて、仙台市中心部でもバンバン売れている」
こうした状況を踏まえ、Gは、被災地に覚せい剤は「合わなかった」と分析する。
「ほとんどの客は、遊びでネタを食っているわけじゃない。余震があるたびに、当時の揺れや津波、死んだ人の思い出とかをフラッシュバックしてしまう。その苦しさから逃れられないせいで、クスリを欲しがるんだよ。そんな人にシャブを食わせたら、寝られなくなって余計テンパる。落ち着きたいわけだからさ。東北の人に必要なのは“酒と眠剤”なんですよ」
現在、覚せい剤の密売で現地入りしたプッシャーなども鞍替え。東京や大阪など都市部で違法に処方されたり、海外から個人輸入されたりした眠剤を被災地で転売するビジネスが確立しているという。
「眠剤なんか1シート(10錠)で数千円と単価が安いシノギだけど、バカにできない。プッシャー1人が2か月間出張して300万円以上売り上げたって話もあるぐらいですから。ただ、眠剤が売れるってことは、確実に大麻のマーケットもあるってこと。この夏からは、大麻かな?」
被災地のドラッグ汚染は続く。
― 震災で一儲けを狙った[火事場泥棒たち]の今【1】 ―
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