会いにいける女流棋士「マイナビ女子オープン」観戦記【後編】
―[マイナビ女子2013]―
8月17日、東京・竹橋のマイナビルームにて『マイナビ女子オープン』の一斉予選が行われた。
『マイナビ女子オープン』は、2007年に創設され、今年で7期目を迎える将棋の女流タイトル戦。優勝者には「女王」の称号と賞金500万円が贈られる。その名の通り「オープン棋戦」であるため、アマチュアの女性選手にも出場枠が設けられている。まさにプロもアマも関係なく「世界で一番将棋が強い女子」、すなわち「女王さま」を決める大会だ。
この日はトーナメント形式で1回戦と2回戦が行われ、本戦トーナメントに進むメンバーが決定された(昨年の成績優秀者は一部シード)。対局は全部で35局もあり、とてもすべては解説しきれず、ほんの一部になってしまうが、独特のその場の雰囲気やおおまかな見どころ等を、写真ギャラリーを交えたダイジェストでご紹介したい。
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実際の対局はというと、どこもかしこも熱戦で、見ていて頭が追いつかないほど。一回戦で大きな話題になったのは、本サイトにて先日インタビュー(https://nikkan-spa.jp/457093)を掲載した美少女中学生棋士・竹俣紅女流2級の1回戦・和田あきアマとの対局だ。電王戦にも出場したコンピュータ将棋ソフト「ponanza」がインターネット対局場「将棋倶楽部24」で指した「ponanza新手」と呼ばれる後手番の一手があり、先手の竹俣女流2級が後手をその局面に誘導したような形になったのだ。
この「ponanza新手」は、竹俣女流2級の師匠である森内俊之名人が、今年の名人戦の第5局(5月30〜31日)で採用し、羽生善治三冠を破って名人防衛を決めたことで話題となった一手。さらに、森内名人はその対局の5日後、王座戦の木村一基八段との対局(6月5日)で、今度はその「ponanza新手」を先手で受ける側に回って勝っているのだ。
竹俣女流2級は「ponanza新手」を受ける側に回り、この対局に勝利。この日は解説で森内名人が来場していたこともあり、師匠の目の前で「師匠の将棋は全部しっかり勉強しています」と言わんばかりの結果を出したことになった。
このように、一手一手の成否や結論が、ほとんど日替わりの速度でクルクル変わるのがプロレベルの将棋の恐ろしいところ。そんな最新の戦型で見事な将棋を披露した竹俣女流2級でも、2回戦では奨励会1級に所属し女流タイトルも保持している加藤桃子女流王座に力負けしてしまうのだから恐ろしい。
さて、筆者がこの日、特に注目していたのは、塚田恵梨花アマと飯野愛アマの両アマチュアだ。
塚田恵梨花アマは、アマチュアの中学生とはいえ研修会所属で、塚田泰明九段と高群佐知子女流三段のご息女と、まさにサラブレッド。過去の『マイナビ女子オープン』では、同じく当時アマチュアだった長谷川優貴女流二段が予選から挑戦者にまで勝ち上がり、わずか4か月で女流二段になるというシンデレラストーリーもあったので、もしかすると、という期待を込めて観戦していた。
また飯野愛アマも、飯野健二七段のご息女で研修会員。テレビやイベント等の出演で将棋ファンからは以前から知られた存在だ。あと一歩のところでなかなか女流棋士になれないでいたところ、ついに今年の10月1日付で女流3級(※)になることが内定し、Twitterなどで話題になっていた。本戦トーナメントに進めば、規定により女流2級になるため、この予選会でもその勢いが出るのではと見ていたのだ。
※自動車免許で言えば仮免のようなもので、規定を満たし女流2級以上に昇級すれば、晴れて正規の女流棋士となる。
結果は、両者とも2回戦を勝ち抜き、見事に本戦進出が決定。同時に飯野アマは女流2級が内定となった。特に塚田アマの藤井奈々アマとの2回戦は、相穴熊からの194手におよぶ大熱戦。穴熊を修復しながら粘りに粘る先手を攻め切っての勝利で見ごたえがあった。そこで、終局後に休憩中の塚田泰明九段を直撃してみた。
「(娘と)直接将棋を指すことはないですね。序盤をちょっとアドバイスするようなことはありますが。特にプロを目指すことを勧めたり反対したりとかはなく、本人の自由にやらせてます。まあ、こういう公開の場だとあんまり恥ずかしい将棋は指さないでほしいなとかはありますけど(笑)。あの将棋を勝ったんだから、よくやったかなと思います」(塚田九段)
全対局の終了後には、将棋専門誌『将棋世界』の名物編集長・田名後健吾氏の司会で、本戦トーナメントの組み合わせを決める抽選会が行われた。緊張しすぎた田名後氏は、対局者の名前を噛んだり言い間違えたりと大ボケを連発。会場は終局後の緊張感から一変し、和やかな空気に。また加藤桃子女流王座が、飯野アマと同じくこの日に女流2級への昇級を決めた姉妹弟子の相川春香女流2級をたたえて感極まる場面もあった。
笑いあり、涙ありと、めまぐるしく濃厚な一斉予選の一日は、これにて幕を閉じた。しかし、女たちの熱い戦いは、まだ始まったばかり。里見香奈女王へ挑戦するのは、このなかの誰になるのか。『マイナビ女子オープン』本戦トーナメントにも要注目だ。 <取材・文/坂本寛 撮影/林健太>
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