ブスのパワーに学べ!? 渋谷直角『リラックス・ボーイ』がもたらす勇気と絶望
サブカルにまみれて自意識をこじらせてしまった男女の群像を描いた『カフェでよくかかっているJ‐POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社刊)がスマッシュヒットを記録し注目を集めている渋谷直角が、新刊『リラックス・ボーイ』(小学館クリエイティブ刊)を発売。本作は、マガジンハウスから刊行されていたカルチャー誌『リラックス』のマスコットキャラクターであるリラックスボーイを主人公に描かれた渋谷の漫画デビュー作。一度単行本化もされたが、少部数だったために幻の作品と化していたのが、このたびめでたく復刊の運びとなった。
主人公は、中学2年生のリラックス君。カルチャーにまみれた平穏な日々を送っていたが、ある日突然現れた怪力無双のブス・ブス子に愛の告白をされて以降、ブス子の一方的で執拗で、かつ暴力的な愛から逃げ回る日々が始まる。随所に散りばめられたサブカルエッセンスで読む者の自意識をくすぐり、打ちのめす技は『カフェで~』にはじまったものではなく、デビュー作にして既に完成されていたことがわかる。さらに、読み進めるにつれて、荒唐無稽に見えるブス子の振る舞いはいつのまにか「好きな相手にまっすぐ気持ちをぶつける」爽快な強さに見え始めるから不思議だ。人生も恋愛も逆回転と足踏みを繰り返している記者(♀・31歳・バツイチ・本厄)は、憧れすら抱いてしまった。
そんなわけで「そうか、私に足りないのはまっすぐ気持ちをぶつける強さなんだ! 目が覚めた!」と、ブス子に勇気をもらった気になっていた記者だが、あとがきにあったトミヤマユキコ氏の指摘で再び目が覚めた。
「『愛する男にアタックし続ければいつかは報われる』というテーマを、アタックされる男の側から描いた場合、恋する少女がブス子のようなモンスターに見えてしまうということだとすれば、女としてはいろいろ気をつけたいところだ」
うっかりブス子に共感して、あやうくモンスターになるところだった……! こうして、二重にも三重にもブーメランが返ってくる点こそが渋谷直角作品の真骨頂。そしてそのブーメランは、人を絶望に陥れつつも、ときとして勇気も与えてくれる不思議なブーメランなのだ。 <文/牧野早菜生>
『RELAX BOY』 サブカル野郎で何が悪い!? 渋谷直角が放つ究極のラブストーリー!! |
『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』 残念な20代、30代男女の肖像をシニカルな筆致で描く連作短編集 |
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