更新日:2014年04月17日 11:10
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写真家が紛争地で“笑顔ある日常”を撮り続ける理由

高橋美香さん

高橋美香さん

 東京・千駄ヶ谷「ギャラリーボビン」で4月14日から、パレスチナの写真展が始まった。写真家の高橋美香さんは、2000年からパレスチナを撮り始め、そのうちの22点の写真を展示している。  しかしそれは、一般的にイメージされるような“紛争地”としてのパレスチナではない。 「今回はあえてそういうものを見せないようにしました。笑顔で働いている人々の姿がほとんどです。こうした私たちと変わらない日常生活を送っている人たちが、突如戦争に巻き込まれるということを想像してほしいのです」(高橋さん)  パレスチナというと日本では“戦場”のイメージで、空爆があって何人死んだというときにしか報道されない。そしてそのときには、“戦場ジャーナリスト”たちが現地に殺到して報道する。 「そういう場面を記録する人も必要だと思いますが、そこに至るまでの日常を記録する人間も必要だと思うのです。私は1回行ったら2~3か月、現地のパレスチナ人家族のもとに居候します。取材方法も視点も、まったく違うと思います」(同)
紛争,写真家

オリーブの収穫が終わった後の木の下に落ちている実を持ち主の厚意で拾わせてもらう、ジェニン難民キャンプに暮らすマハ。棘だらけの地表から拾う実は、収穫 時期の過ぎた干からびて油分のないものだが、そこから採れるわずかなオリーブオイルを換金して生活費の足しにする

 高橋さんは、平和な日常からいきなり銃弾が飛んでくるような場面へと切り替わる現場を何度も見てきたと語る。 「昨年秋に、知人が、ジェニン難民キャンプでイスラエル兵に撃たれて死にました。私が居候していたビリン村の家族のいとこは、つい先日イスラエル兵に銃撃されて肝臓と腎臓を損傷し、一命は取りとめたものの腎臓を摘出しなければならなくなりました。でも、こうした程度のことではニュースにもなりません。派手な爆撃などがなければ、軍や警察によって人一人の死傷者が出たなんてことは日常的すぎて、日本ではほとんど報道もされないのです。  私がパレスチナで居候させてもらっている先のお父さんはファタハ(穏健的なパレスチナ解放運動)の活動家でした。そのお父さんがイスラエル軍に捕まって拷問を受け、ぼろぼろの状態で帰ってきました。その後徐々に体を壊し、晩年は寝たきりで立つこともしゃべることもできない。彼は46歳で亡くなりました。その後、お母さんは一家8人を養うために男ばかりの重労働の農場で働いています。あまりにキツイので多くの人が辞めていくそうですが、こんな職場しか働き場がないほど、パレスチナには職がないんです」  こうした取材体験を通じて、高橋さんは「日常の記録こそ、いちばん大事なジャーナリズムなのではないか」との結論に達したという。 「その死んだ人たちがどんな人生を送っていて、なぜ死んだのか。残された家族たちはどうしているのか。私はそういう部分を掘り下げたい。そして、彼らが突然命を奪われるという世界というものをどう変えたらいいのかを考えていきたいと思っています。私はこれからも一生、パレスチナを撮り続けるつもりでいます」 【写真展 カフェアラビアン】 今回の写真展は、イラン、トルコ、ヨルダン等のイスラム世界を撮り続けてきた小田桐知さんと合同での開催。会場には2人とも常時いるので、高橋さん、小田桐さんの取材秘話を直接聞くことができる。中東地域の現状を知りたい人はぜひ! 会場:Gallery Bobbin ギャラリーボビン 〒151-0051 渋谷区千駄ヶ谷 4-17-2 http://yubininngyou.cocolog-nifty.com/blog/gallery-bobbin-.html 日程:4月14日(月)~20日(日)12:00~19:00 ※詳細は随時こちらでお知らせする予定です facebook https://www.facebook.com/events/205454479664277/207408252802233/?notif_t=likehttp://blogs.yahoo.co.jp/mikairvmest/39754368.html 【高橋美香】 1974年広島県生まれ。2000年にエジプトへ渡り、アラビア語を学びながらエジプトの伝統芸能であるスーフィダンスやパレスチナを取材、撮影。さまざまな「困難」に立ち向かう人々の日常をテーマに撮影を続けている。著書に『パレスチナ・そこにある日常』(未来社)など。 http://blogs.yahoo.co.jp/mikairvmest <取材・文/北村土龍>
パレスチナ・そこにある日常

戦闘や犠牲の一面だかじゃない。 そこには笑顔も夢もある。 私たちと同じ「生活」がある。

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