電王戦は“終わった”のか? 単純な「勝ち負け」を超えたその先の勝負へ
―[電王戦3]―
⇒【前編】第3回将棋電王戦全5局を総括。「1勝4敗」の意味するものとは?
全体的な話としては、コンピュータ側は昨年より明らかにひと回り強くなっている。『第3回』ではハードウェアがドスパラの「GALLERIA」に統一され、『第2回』のように何十台、何百台ものマシンを使ったクラスタ構成は取れなくなったが、ソフトの評価関数の精度は上がっている。もし来年『第4回』があれば、さらに強くなることが容易に予想される。
しかし、それでもなお記者は「もう電王戦は終わった」「コンピュータが名人を超えた」とは言いがたい。何をもって「終わった」「超えた」とするかという定義の問題もあるが、まず実際の将棋の内容と、プロ棋士や開発者たちの発言を総合すると、2勝7敗1引き分けという数字ほどの差を感じないというのが大きい。もちろん、このレベルの極限の勝負では、ほんのわずかな差がモノを言うところではあるが。
そもそも現役のタイトルホルダーがまだ電王戦に出場していないということもある。日本将棋連盟会長の谷川浩司九段は、記者会見で「タイトルはスポンサーのもので、将棋連盟のものではない(ので自分たちだけで電王戦に出場させることを決定できない)」というニュアンスで立場上苦しいコメントを出していたが、さすがにそろそろ、どうにかしないとマズイ状況かもしれない。
コンピュータは本当に強くなった。そのことは3回にわたる電王戦を通して、もう世間にも十二分に知れ渡っている。またその間、プロ棋士たちもコンピュータ将棋ソフトの仕組みや指し手の背景にある読みの傾向などについて、すさまじい速度で詳しくなっている。それはこの『第3回』で取材するなかで記者が特に感じた部分だ。
たとえば菅井五段は、この『第3回』でYSSやPonanzaが指した「横歩取りでの△6二玉」を改良し、郷田真隆九段に快勝している(棋聖戦決勝トーナメント:4月8日)。コンピュータは進化するが、プロ棋士たちも強くなる。研究も日々、更新され続けている。一方的にコンピュータの成長速度に追い抜かれるだけでなく、抜きつ抜かれつというストーリーも、ありえない話ではないのではないか。
一切が未定という『第4回』に対する世間的な期待は、やはりタイトルホルダーの登場だろう。しかし、個人的には今年と同様のルールでプロ棋士側にタイトルホルダーなしでも、勝ち負けは別にして、十分に面白い将棋を見られると考えている。塚田泰明九段が第4局の記者会見で発言していたように、対コンピュータ戦には向き不向きもある。『第2回』と『第3回』で若手のみが勝ち星を挙げたことを考えれば、若手メインの5人であっさり勝ち越しというのも、まったくない話ではない。
『第3回』のニコ生のリアルタイムの総来場者数は213万人と前回を上回り、第5局は71万人と1番組あたりの過去の将棋放送史上最高を記録したという。はたして来年はどうなるのか。開催そのものも、5対5の団体戦になるのかもまだ不明だが、勝ち負けでも将棋の内容でもそれ以外の部分でもよいので、また電王戦が将棋にとって、人間とコンピュータにとって、新しい驚きをもたらす未来を期待したい。
- 第2局は両国国技館で行われた。第1局と同じく観客は入れず、シュールな絵面に
- 第2局では両国国技館の控え室が検討室として使用されていた
- 左からPonanza開発者・山本氏、習甦開発者・竹内氏、ツツカナ開発者・一丸氏
- Ponanza開発者・山本氏と談笑する豊島七段。「豊島きゅん」の愛称でアイドル的な人気もある
- 第2局の観戦記を担当した河口俊彦七段。興味深げにツツカナの画面を見つめていた
- 100万円チャレンジ企画等でおなじみのアマ強豪・細川大市郎氏。この日は妻である安食総子女流初段との初共演が実現した
- 電王戦のおやつはスポンサーのローソンが提供。この日はおはぎだった
- 豊島将之七段と永瀬拓矢六段の検討の様子。2人とも通算勝率7割超えの若手超強豪だ
- 第3局は開業したばかりの「あべのハルカス」で行われた。豊島七段の背後には大阪を一望できる絶景が
- 「電王手くん」が初めて、そして唯一となる「投了」の動作を行った瞬間
- YSS開発者・山下氏と習甦開発者・竹内氏にコンピュータの読み筋を熱心にたずねる河口七段
- Ponanza開発者・山本氏とツツカナ開発者・一丸氏が勤めるHEROZの林隆弘社長と局面を検討する豊島七段
- 第5局の屋敷九段の昼食は「ほそ島や」のカレーライス。決戦は食べ慣れたもので
- 第5局のおやつタイムには竹俣紅女流二級も登場。右はレポーター役の藤田綾女流初段
- 棋譜をコメント付きで中継する「日本将棋連盟モバイル」編集長の遠山雄亮五段。いつもお世話になっております
- 昨年Ponanzaと激闘を演じた「ギターを弾く方のサトシン」こと佐藤慎一四段も登場
―[電王戦3]―
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