優しいお父さんが、アラフォーで悪羅悪羅系デビュー
思想信条から趣味、嗜好など、人は変わる。人との関係性もまた、変わりゆく。とはいえ、親しい人が突如、予想だにしなかった“変革”を遂げたとき、その変化を受け入れられるのか? 嫌いになれたら楽だが、嫌いになるのも難しいのである
◆夫が悪羅悪羅に目覚めて<坂下裕子さん(仮名・35歳)>
「もともとは、夫の誠実さ、真面目さに惚れて結婚したんです」と話す坂下裕子さん。数年前の夫の写真を見せてもらうと、確かに誠実さが滲み出ている優しいお父さんタイプである。
「それが38歳を超えてポッコリ出始めたお腹を気にして、ダイエット目的で近所の格闘技ジムに入会したのが運の尽きでした……」
地域密着型のジムには、地元の元ヤンキーなど血気盛んな男たちが在籍。坂下さんの夫も最初は及び腰だったそうだが、元来の真面目さもあって、熱心に通うようになった。
「自分よりも3歳年下の“ボス”と呼ばれる義理堅いジム代表に感化されてしまったんです。『家族』『仲間』『絆』を大切にする精神が、意外にもウチの旦那の考え方とシンクロしてしまったようで(苦笑)」
夫の変化は劇的だ。愛読雑誌は『日経トレンディ』から、“黒と悪”をテーマにした悪羅悪羅(オラオラ)系を提案するファッション誌『ソウルジャパン』にチェンジ。「ボスみたいになりたい!」が口グセとなり、日焼けサロンに通い始め、髪は金髪短髪に。クルマもプリウスからミニバンに乗り換え、内装には当然、重低音ウーハー搭載だ。
「仕事は、家業を受け継いだ不動産屋なので、夫に注意する人は誰もいません。最近は、後輩の従業員までもジムに誘い、彼らもまた、影響されて悪羅悪羅系に染まり始めています……」
しかも、強面な不動産屋になってしまったためなのか、のめり込みすぎて仕事が疎かになっているためなのか、売り上げはなんと、以前の30%減!
「私がいくら『仕事のことを考えると、もう少し、堅気な格好がいいんじゃないの?』と言っても、夫は『俺は家族の力、信じている。乗りきれる』の一点張り。意味がわからないですよ(笑)」
最近では仕事面だけではなく、坂下さん自身にも実害が及ぶ。
「ジムは生徒同士の家族付き合いも大切にしていて、ボスたちとの飲み会やキャンプに、私たち家族を連れていくんです。大酒飲んで大騒ぎして、時々カッとなって仲間同士でケンカをして、仲直りして泣いて……。そんなヤンキー文化に馴染めず戸惑うことばかりです」
ただ、ボスの教えどおり家族のことは大切にしているため、坂下さんもあまり強く文句は言えないという。
「心配なのは、息子にもラメ入りの黒いジャージを着せることですね、正直、子供は染まってほしくないんです(苦笑)」
イラスト/佐藤ワカナ
― 「ツレが○○に目覚めたとき」の傾向と対策【2】 ―
ハッシュタグ