映画にもなった、新宿ゴールデン街の恋愛事情とは?
海外のガイドブックに度々紹介されて、外国人の観光スポットとして人気急上昇中の新宿ゴールデン街。時代に取り残されたようなレトロな雰囲気が大きな魅力だが、最近は世代交代で若い店主も参入してオシャレな店も増えている。2020年東京オリンピックに向けての再開発に伴い、区画整理されるのではと噂されているが、テレビや雑誌で頻繁に取り上げられるなど依然として注目度は高い。
とはいえ初心者にとって、猥雑なムードを漂わせる新宿ゴールデン街に足を踏み入れるのは敷居が高い。そこで現在、テアトル新宿で公開中の新宿ゴールデン街を舞台にした映画『つぐない〜新宿ゴールデン街の女〜』を撮ったいまおかしんじ監督と、ヒロインを演じた女優の工藤翔子さんに、新宿ゴールデン街の魅力や恋愛事情などを語ってもらった。
――いまおか監督がゴールデン街に行くようになったキッカケは何ですか。
いまおか:助監督時代、先輩たちに連れられてですね。その時の印象は、やたらとケンカが多いところだなと(笑)。本音をぶつけ合えるところで、絡まれたりして鬱陶しいところもあるんだけど、そこが面白いと言うか。なかなか普通の酒場では、別々に来た客同士が掴み合いのケンカになることなんてないからね。
工藤:しかも、さっきまでケンカしていたのに、気付いたら笑って会話している。
――工藤さんはゴールデン街ではありませんが、歌舞伎町に『寺小屋』という飲み屋を経営しています。どうして歌舞伎町を選んだんですか。
工藤:もともと住んでいたのが新宿だったのもあるけど、一人でカウンターだけのお店を出すなら予算的にも集客を考えても歌舞伎町かなと。だいたいオープンは朝8時なんですけど、そしたらゴールデン街の店主や、朝までゴールデン街で飲み明かしたお客さんが来るようになったんですよね。
いまおか:寺小屋も普通じゃないよね。朝早くから開いていて、朝までグルッと飲んだ人が来るじゃない。かなりディープだよ。
工藤:朝方に「じゃあ、また」って店を出て行ったのに、夕方には同じ服で再来店したりね(笑)。歌舞伎町は眠らない街とはよく言ったものです。
いまおか:しかも歌舞伎町の中でも一際目立たない路地裏に入るんだから、ここに集まる客はつわものだよ。
工藤:今でこそ女の子も一人で通れる路地になりましたけど、お店をオープンした当時なんて怖くて絶対に通れない場所でした。
いまおか:昼間ぐらいに近くを通ったら、寺小屋の前でパンツ丸出しで倒れて寝てた女の子がいた時は偉いなって思った。
――襲われてもおかしくないですよね(笑)。
いまおか:それだって普通の光景で日常だってことだよね。
工藤:きっと、その人たちだって銀座だったら銀座の飲み方をするんですよ。ゴールデン街だからゴールデン街なりの飲み方をすると(笑)。
――ゴールデン街も若いお客さんが増えましたよね。
工藤:ここ5、6年のことだと思うんですけど、長くやっていた店主の方たちが辞めたりお亡くなりになったりで、新しいお店が増えたのが大きいでしょうね。
――『つぐない』にゴールデン街で出会ったばかりの男女が、そのまま肉体関係を持つシーンがありますが、現実でもあることですか。
工藤:あるでしょうね。カウンターだけのお店が多いから距離感も近いし、お互いに酔っ払っていて意気投合したらね。
いまおか:これは寺小屋の話だけど、会ったばかりの男女二人がフラッといなくなって、しばらくしたら女性だけ戻ってきて、「寝ちゃったから部屋に置いてきたわよ」って言ってたことがあったな。
工藤:あったあった。「置いてきたけど大丈夫かな?」って不安そうに言うから「子供じゃないから大丈夫でしょう」って(笑)。
――ゴールデン街の恋愛事情はどうなんですか。
工藤:店主同士で付き合うとかは滅多にないけど、お客さん同士で付き合うことは多いですね。まあ破局するカップルも多いですけど(笑)。
いまおか:ゴールデン街のお店でバイトしてた子と、俺の知り合いの映画関係者が付き合って、そのまま結婚した例もあるね。
工藤:中には世話好きなママさんもいますよ。いい感じの男女がいたら「○○ちゃんを送ってあげて!」って。
いまおか:アシストしてくれる訳だ。それ、いいねぇ。
――最後にゴールデン街の魅力を教えてもらえますか。
工藤:さっきまでケンカしていたのに数分後には楽しく飲んでいる臨機応変さ、屈託のなさがゴールデン街にはあるんですよね。事なかれ主義な世の中だけど、ゴールデン街は言いたいことを言い合えるので、今の人間関係に寂しさを覚えている人は来るといいですね。そういう経験をすると、人間的にも大きくなれると思うんですよ。
いまおか:ゴールデン街って部室みたいだよね。学生時代は学校と家の間に部室があったけど、社会人になると部室みたいな居場所は少ない。だから会社終わって家帰っての間にゴールデン街に足を運んで、2000円ぐらいで1杯か2杯飲みながら、店主や顔見知りの客を相手に近況報告をする。そういう場所があると、ちょっといいよねっていうのがゴールデン街。
――『つぐない』は、そうしたゴールデン街の魅力をウェットにではなく軽いタッチで描いていますよね。
工藤:ゴールデン街って個性的な人が多くて、その個性がぶつかり合っている街なんですよね。ただ、個性的な人にも普通な部分ってあるし、普通な人にも個性的な部分はある。いまおか監督は、そうした個性のぶつかり合いを暖かく、フラットに描いてくれているので、新宿ゴールデン街という場所と、そこに集まる人間というものをリアルに感じていただけたらなって思います。
(C)『つぐない~新宿ゴールデン街の女~』
<取材・文/猪口貴裕 撮影/道清展行>
【工藤翔子】
くどう・しょうこ 1995年、瀬々敬久監督の『終わらないセックス』で映画初出演。主にピンク映画、Vシネで活躍。1999年に女優活動を休止するが、『つぐない~新宿ゴールデン街の女~』で映画復帰。歌舞伎町の飲み屋『寺小屋』の店主でもある
【いまおかしんじ】
1990年、獅子プロダクションにてピンク映画の助監督を始める。1995年、『獣たちの性宴 イクときいっしょ』で監督デビュー。主な作品に『たまもの』(2004年)『かえるのうた』(2005年)『おんなの河童』(2011年)『星の長い一日』(2013年)など
【作品情報】
『つぐない ~新宿ゴールデン街の女~』
2014年製作/日本/ドルビーデジタル/87分/デジタル上映/配給:インターフィルム
全面協力:新宿花園・ゴールデン街/15歳未満鑑賞不可
(C)INTERFILM/KOKUEI/V☆パラダイス
テアトル新宿にてレイトショー公開中。
新宿ゴールデン街のバー「罪ほろぼし」に、一人の女が訪れる。バーのママ、その内縁の夫、常連客の男、そしてその女それぞれの過去が次第に明かされていく。心もとない足取りながら、なんとか歩んでいこうとする4人の生き様を、酒の匂いと色気と誇りを漂わせて、見つめる大人の人間ドラマ。撮影は新宿ゴールデン街で行われ、実在のゴールデン街のお店や住人が多数出演している。
●『つぐない』公式サイト http://www.tsugunai.jp/
●『つぐない』公式ツイッター http://twitter.com/tsugunai_movie
●『テアトル新宿』公式サイト http://www.ttcg.jp/theatre_shinjuku/
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