恋愛・結婚

中年童貞は「社会問題」なのか?

中村淳彦

著者の中村淳彦氏は名前のない企画AV女優を追ったルポ『名前のない女たち』(宝島社)や『日本の風俗嬢』(新潮社)などの性風俗関係の著書だけではなく、『崩壊する介護現場』(ベスト新書)など、多数の社会派の著書を出すノンフィクション作家である

 昨年2月末、幻冬舎のウェブサイト上に「ルポ 中年童貞」がアップされた。公開直後から同社史上空前の大炎上を食らい、世間の注目を大いに集めた賛否両論のコンテンツである。このルポはその後連載シリーズとなり、今年1月末に幻冬舎新書として発売された。

 童貞を捨てられない中年男性たちの生態をえぐるのは、そもそもノンフィクション作品としては反発必至のデリケートなフィールドだ。そこに斬り込み中年童貞の生態に迫った著者の中村淳彦氏を駆り立てたものはなんだったのか。

「あの原稿が炎上するとは、まったく思っていなかった。幻冬舎の担当編集者も慌てて僕に電話してきて、『なんかすごいことになっています』って。彼女によれば、記事を公開してから最初の一週間は、中年童貞的な人が爆発的に怒ってむちゃくちゃに僕のことを叩いていたようです。偏見だとか、ヘイトスピーチ、中年童貞に親でも殺されたのか、とか」

 クールな中村氏と怒りに燃える「中年童貞」たちのあいだには、大きな温度差があるように聞こえる。だが、よくよく尋ねると、実は当時の中村氏も、激しく熱いマグマをたぎらせていた。

「僕は7年前から介護の会社を経営しているのですが、現場はあらゆるトラブルにまみれ。介護職たちは、本当にどうでもいい理由で同僚と毎日いがみあっています。本当に地獄という言葉がピッタリな大変な世界。いったいなにが悪いのかと、経営者としてずっと考えていた。会社を起こして3年くらいした頃、35歳すぎの低学歴の未婚男性に原因があることに気づいたわけです。実家暮らし、未婚、女っ気がない、外見スペックが低い。話を聞くと女性経験もない、20年前の初恋を引きづっているとか……いわゆる中年童貞がトラブルの中心にいた」

 これではまるで、ダメ社員に対する私怨である。中小企業の社長であれば、「あいつさえいなければ……」と頭を悩ませる社員は必ずいるものだ。だが、そう指摘しても、中村氏は反論しない。

「取材を始めた頃は、自分の会社をかきまわす中年童貞に対するネガティブな感情が確かにあった。自社の存続とか、社会保障である介護を破綻させないための処方箋を探すことが一番の目的だった。ただ、取材を進める中で、中年童貞は、介護業界にとどまらない、もっと大変な問題だと認識が変わっていった。『中年童貞=自由恋愛の敗者』『自由恋愛の敗者=社会から排除された存在』というもっと大きく深いテーマ、これは社会問題ではないかと」

 中村氏の視点が私怨から社会問題を見据えるものに変わったきっかけは、秋葉原で路上取材を試みた際、声かけを断れなかった中年童貞氏(32歳)だ。彼に密着する過程で、オタクばかりが住んでいるシェアハウスに足を踏み入れたとき、中村氏は、中年童貞は社会全体で考えるべき問題だと強く感じたという。

 また、高学歴の中年童貞は、頭が良い分、こじらせ方の度合いが低学歴の中年童貞よりも数段強いと中村氏は指摘する。

「自分が女性にモテないことを自覚して、徹底的に自分を責めて諦めるあまり、ゲイ男性に走り、何度もハッテン場で男性とセックスしている高学歴中年童貞(36歳)に会いました。彼は、秋葉原殺傷事件の加藤智大やPC遠隔操作事件の片山祐輔に共感すると言っていた。高学歴の中年童貞は自分が社会から排除されていることに敏感で、自傷や爆発に走る傾向を持っているように思います」

 だが、中年であり童貞という属性だけで括り、それを「問題がある」とするのはあまりにも乱暴な議論ではないか? あたかも中年童貞であるだけで犯罪予備軍扱いしているようにも聞こえてしまう。

 しかし、中村氏はあえてその領域に足を踏み入れ、実態に迫った。中村氏の推計によれば、こうした中年童貞が全国で209万人存在するという。これは長野県の総人口に匹敵する数だ。

「90年代、恋愛を自由にしようという動きが起きた。少子化とか中年童貞が増えている結果を見ると、それはダメだったんだなと思った。中年童貞は、本人の努力ではどうにもならないのに、誰も彼らに手を差し伸べていません。日本国民は、この実態を社会問題として正面から考えなくてはダメです。僕は社会学者ではないので処方箋は見つからないですが、実態をなるべく可視化していこうと考えています」

 童貞は捨てる自由、ままでいる自由もあるとはいえ、中村氏には「根深い問題」と見えているようだ……。

取材・文/SPA!中年童貞問題取材班

ルポ 中年童貞

童貞というコンプレックスは彼らの社会的な自立をも阻害する




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