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TOKYO NO.1 SOUL SET 渡辺俊美の弁当本「美談みたいになっちゃって少し居心地が悪い(笑)」

 TOKYO NO.1 SOUL SETのメンバー、渡辺俊美が息子に作って学校に持たせた弁当の写真を収めたフォトエッセイが話題を呼んでいる。『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』というタイトルが示す通り、離婚以来、男手ひとつで息子を育ててきた渡辺が高校に通うその息子のために作り続けた弁当を記録した内容だ。弁当を通じての父と息子の交流が多くの読者の支持を集めているという。男っぽいイメージの強い渡辺とお弁当とは意外な組み合わせにも思えるが、学生時代から「レコードや洋服を買うために自炊して食費を浮かせていた」というだけあってどの弁当も出来栄えはなかなかのもの。エッセイは口コミで評判を呼び、ドラマ化されるなど発売から1年近く経つにも関わらず売れ続けている。

公演で地方へ出向くことも多い渡辺。「その地方の名産品をお弁当にどう取り入れるか、つい考えてしまう」そう

――渡辺さんとお弁当というのがイメージとして結びつきにくかったのですが。 「おっ、今日は音楽の取材じゃないんだね(笑)。元々食への関心はありましたよ。料理は好きですし、僕は池波正太郎の食エッセイを読んで育ちましたから。以前からブログで弁当をアップしていたので、料理本やレシピとして出そうみたいなオファーは頂いていたんですけど、僕は料理のプロではないし乗り気じゃなかったんです。自分では本にするなら写真と文で見せるようなイメージでいたら、たまたま雑誌の取材でその話題が出て、編集者が『面白いので本にしましょう』って言ってくれたのがきっかけ。本にすることで息子の思い出にもなるとも思ったのでオファーを受けました」 ――多忙な中、弁当を作り続けるのは大変だったのでは? 「『3年間作り続けて凄い』ってよく言われるけど、僕が勝手に作っていたというか、親が子供のために何かするのは当たり前のことで、珍しくもなんともないです。美談みたいになっちゃって少し居心地が悪い(笑)。僕はそんなにいい人じゃないよって。むしろ毎日ちゃんと食べてくれないと成り立たないから、息子に感謝ですよ。『あれが美味しかった』とかマメに感想をメールしてくれたりして、それがモチベーションになりましたね。あとは達成感かな。例えば、調理は40分以内、予算は300円以内ってルールを作ってそれをゲーム感覚でクリアする。その達成感が僕を支えてくれましたね。料理は好きだし、好きだからこそ中途半端に諦めたくなかったです」 ――元々自炊していたとはいえ、弁当の出来栄えはかなりのもの。料理本やレシピなど何か参考にされたものはあるんですか?

食に関する本をよく読むという。料理本から池波正太郎や伊丹十三のエッセイ、『美味しんぼ』や『食の軍師』などマンガまで幅広い

「弁当作りに関しては基本的な部分は野崎さんの本(懐石料理の名店『分とく山』の野崎洋光氏)を参考にしましたが、あとは自己流ですね。僕は同じものではなくちょっとアレンジしたくなるんですよね。洋服もそうだけど、ベーシックな物を組み合わせればそれなりにはなるけど、それでは面白くない。ちょっと着崩すくらいが楽しいんです。食に限らず、音楽も服も同じポリシーですね。料理に限らずなんですけど、家事って世の中でいちばんクリエイティブなものだと思うんですよ。弁当もそうですけど、掃除や洗濯にしても限られた時間内で工夫していかに効率よくこなして気持ちよく生活できるかを考える。これって凄く達成感がありますよ。作品作りと一緒で上手くいかないと機嫌が悪いですよ(笑)」 ――本業の音楽活動についてお伺いすると、TOKYO NO.1 SOUL SETの活動と並行して猪苗代湖ズ(福島出身のミュージシャンで結成したバンド。「I love you & I need you 福島」で’11年の紅白歌合戦にも出演)に参加するなど、復興支援活動を精力的に行っています。東日本大震災はご自身にどのような影響を与えましたか? 「ミュージシャンとして活動してきて、あまり気にかけたことはなかったんですが、何か大きな目標を成し遂げようと思ってもそれは一人じゃできないということにあらためて気付きました。一人一人が身近なところから取り組んでいくしかない。それが僕の場合は息子だったし、息子を大切にすることによって新たな希望が芽生えました。本を作る過程はそんな息子と絆を再確認する機会にもなりましたね。その瞬間は生きることに必死で気付かなかったけど、目の前にいる人をまず大切にすることが、その先につながっていくんだって。“小さなありがとう”から広がっていくってうれしいじゃないですか。音楽に置き換えると確かに音楽にフォーマットは存在するけど、流行も始めはマイノリティーから始まる。テレビでいえば、バラエティは東京12チャンネルみたいな感じで(笑)」 ――創作活動にも変化はありましたか? 「音楽って難しいのは扱い方次第で武器にもなっちゃうんですよね。とくにロックなんかそうなんですけど、誰かを攻撃したり、批判したり。僕自身も東電だったり国をちょっと憎んでしまったり。風評被害なんかも含めて、『どうしてこうなっちゃんたんだろう?』って。そういう気持ちから離れるまでに1年かかりましたね。僕はやっぱりそうじゃなくて、人をなるべく傷つけない、楽しくって励ましになるような音楽をやりたかったので、震災当初は難しかったです。震災とか自然災害を防ぐことはできないけど、生きることを諦めてかけているような人に向けてのメッセージを送ることなら自分にもできるなって。これからも音楽にしてもこういう本もそうですし、洋服なんかもそうですけれど、触れる人がわくわくする、心を動かせるようなものを作っていきたいと思っています」 <取材・文/大澤昭人(本誌) 撮影/岡村隆広>

「本当はもうちょっと弁当を作りたかった」という渡辺だが、息子の大学進学を機にピリオド

【渡辺俊美】 ’66年、福島県生まれ。’90年、TOKYO NO.1 SOUL SET を結成し、ギター、ヴォーカル、サウンドプロダクションを担当。グループ活動と並行して、THE ZOOT 16、渡辺俊美名義でも作品を発表。東日本大震災を機に福島出身のアーティストで猪苗代湖ズを結成。音楽活動他、アパレルブランド「DOARAT」ではディレクションも務める。2010年に前妻と離婚、一人息子の登生(とうい)君を男手ひとつで育てる。13年に再婚 ●『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』 (渡辺俊美著/マガジンハウス刊) 高校進学を機に毎日弁当を作ることを息子と約束した渡辺が、461回に渡り作った弁当を写真と文で紹介した“お弁当エッセイ”。弁当箱やキッチンツールなど渡辺ならではの審美眼で選ばれた道具類も見どころのひとつ
461個の弁当は、親父と息子の男の約束。

無骨だけど愛情たっぷり!

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