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患者に「早く死なせてほしい」と言われて…終末医療の専門医が真情を吐露

 93歳の夫が、体の痛みを訴えていた妻に頼まれ殺害したとして、嘱託殺人の罪に問われた公判が千葉地裁で開かれている。妻は生前、介護サービスを受けるのを嫌がり「家族に迷惑をかけたくない」と書かれたメモを残したと、6月18日付の朝日新聞が報じている。判決は7月8日に言い渡されるという。

 今や総人口の26%が65歳以上の高齢社会である日本では、自分がこうした場面に直面することは決して珍しくない。病気で弱り、他人を頼って生きていくことは誰にでも起こりうるのであり、いずれ自身が苦悩することも考えられる。安楽死が認められていない日本で、この問題にどう向き合えばよいのだろうか。

終末医療 先日『患者から早く死なせてほしいと言われたらどうしますか?』(金原出版)を上梓したばかりの医師・新城拓也氏も、今までに患者から「お願いだから死なせてほしい」と切望された経験が何度もあると話し、こう続ける。

「『死にたいほどつらい』というのは、生きる意味が見出せないことや、他人への負担感であることが医学の研究で示されています。人は元気だった頃と同じように過ごせなくなったとき、生きていることの意味を見失ってしまうのです。私の経験では、自分でトイレへ行けなくなる状況に直面したとき、老若男女を問わず精神的な苦痛がピークになると感じています。そして、自分のことが自分でできなくなることが苦痛になるだけではなく、自分でできなくなったことを他人に手伝ってもらうことも、二重となって心のつらさになるのです」

 どうして他人にモノを頼み、依存することに苦痛を感じてしまうのだろうか。

新城拓也氏

新城拓也氏

「一つの答えとして、幼い頃から『自分のことは自分でする』と教育されているからでしょうね。できるだけ他人に頼らず、自分のことは自分でする、それが自立であるという信念です。この信念を持ち続けて生きていくと、自分が弱ったときに自分のことが許せなくなります。社会でも、医療でも、繰り返し問われ続けるこうした原則が『こんな状態で生きていくのなら、死んだほうがよい。早く死なせてほしい』と患者を追い詰めてしまうのではないでしょうか」

 誰しも老いて病気になってしまう可能性はある。それでは、これからの高齢社会のなかで、どういう人がうまく生きていけるのだろうか。

「他人にモノを頼める人は、在宅でもうまくやっていけます。自立は依存先を増やすことであり、何でも自分一人でやろうとせず、人に頼み事ができること、人に自分を委ねられることこそが、真に自立した生き方であるということです」

【新城拓也氏】
1971年生まれ。1996年名古屋市立大学医学部を卒業。脳外科、内科を経て、社会保険神戸中央病院緩和ケア病棟でホスピス医として10年間勤務。2012年に、がん患者の外来・訪問診療を実践する「しんじょう医院」を開業。以来、在宅医療の世界に身を投じ、日々奮闘している。日本緩和医療学会理事。近著に『患者から早く死なせてほしいと言われたらどうしますか?』(金原出版)など。

<取材・文/北村篤裕>

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