子どもの貧困対策は「ひとり親世帯」だけでは不十分。「共働き世帯」にも救いの手を
「第3回 子どもの貧困対策会議」が8月28日に首相官邸で開催され、政府は経済的に厳しい“ひとり親”世帯への支援策をまとめた。ひとり親世帯の子どもへの支援を年間50万件行うことや、奨学金や低所得世帯への手当充実を検討する予定だ。
会議で安倍晋三首相は「子どもたちの未来は日本の未来そのものであります」と述べ、その内容は“ひとり親”世帯への支援を強化するものが中心となっている。しかし、「世帯タイプで分けると、子どもの貧困に目が行かなくなってしまう」と警鐘を鳴らしているのは『子どもの貧困』の著者である阿部彩氏だ。同氏への『子どもの貧困連鎖』(新潮社)のインタビューから発言の一部を引用する。
<子どもの貧困を改善しようと考える時には、母子世帯だけの対策では足りないし、 父子だけでも駄目です。また、特定のタイプに着目した制度には批判が起きることもあります。その意味で、私は母子だけに着目するのでなく、子どもに着目した「子ども対策」が必要だと言いたいのです>
厚生労働省が発表する「子どもの貧困率」が’12年は16.3%で過去最高となり、日本では子どもの6人に1人が貧困状態にある。特にひとり親世帯の貧困率は54.6%と高く、経済協力開発機構(OECD)加盟33か国の中でも最悪だ。
さらに最近は、非正規雇用の拡大など様々な理由により、貧困はひとり親世帯だけでなく共働き世帯にも広がっているという。貧困率の高さでは母子世帯が群を抜いているが、世帯数は多くない。貧困の子ども数を比率で見ると、圧倒的に数が多いのは両親がいる世帯の子どもなのだ。貧困の子どもの過半数には両親がおり、30%程度が母子世帯、10%程度が父子世帯という比率のようだ。
<貧困の世帯の現状を見ると、近年は母子世帯以外の貧困率がジワジワ上がってきています。男性と女性の格差が微妙に縮まっていて、それは女性の貧困率が下がったということではなくて、男性の貧困率が上がったからです。このごろ、単身女性の貧困がとても話題になっていますが、単身男性の貧困も大きな問題です。今は日本全体が貧困化しているといえます>
貧困がジワジワと広がっている共働き世帯の子どもには、まだまだ手が行き届いていない。以前から母子世帯には児童扶養手当などの支援があったが、両親がいる貧困世帯の子どもを救済する制度は、今も存在していないのが実情だ。
また、ひとり親家庭の親も夜遅くまで働きづめというケースが少なくない。子どもは家庭で夕食をとれず、行き場を失い夜の街へふらふらと出歩いて犯罪に巻き込まれるという事件が実際に起き始めており、これは決して見過ごせない。
「子どもの貧困をなくすという観点からは、ピンポイントで子どものいる世帯への公的給付を増やすのが有効です」と阿部彩氏は解説している。そして現在の日本で働いても暮らしが楽にならない原因は「子育ての費用が高いこと」と「低所得世帯に対する公的給付が少ない、それと女性の賃金が低い、収入が少ないこと」だと本書では解説している。
政府は子どもの貧困対策の一環として、地域での学習指導や食事の提供などを行う「子どもの居場所づくり」を進める予定だ。ひとり親世帯の子どもに対し、公民館など公共の建物の空きスペースを利用して、学童保育が終わったあとの学習や食事の場をつくる。仕事で親の帰宅が遅く、一人で過ごすことが多くなりがちな子どもが、学習の遅れや孤立感をもつことを解消するのが狙いだという。
10月には「子供の未来応援国民運動」が始動する。子どもの貧困問題は、もう先延ばしできないところまできている。 <文/北村篤裕>
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