タモリの次はオザケン…樋口毅宏初のコラム本は「ド直球のオマージュ」
―[樋口毅宏]―
最新刊『ドルフィン・ソングを救え!』が好調で、『週刊SPA!』(12月8日発売号より)ではプロレス小説「太陽がいっぱい」の連載開始と、小説家・樋口毅宏はいま乗りに乗っている。そんな中、またあらたな新作が!……と思いきや、まさかのサブカルコラム集。その名も『さよなら小沢健二』だ。
『さらば雑司ヶ谷』『日本のセックス』『民宿雪国』など、数々のヒット小説で知られる樋口氏。それら小説に盛り込まれている膨大なオマージュは毎回話題となる。『さよなら小沢健二』はそのオマージュ&引用の源泉とも言うべきコラム集で、自他ともに認める“サブカルクソ野郎”がこれまでさまざまな雑誌や書籍、新聞などに寄稿してきたものを厳選収録し、一冊の本にまとめ上げた。
樋口:僕が目標としている作家のひとりに小林信彦という人がいて、彼も小説とコラムの両方をたくさん書いています。小説は純文学・SF・パロディ・大衆的なものなど多岐にわたっていて、『週刊文春』で長年連載しているコラムも毎回性格の悪さが出ていて楽しい(笑)。コラムは物語ではないし、雑文と言えるとも思うけど、「樋口毅宏は小説以外も面白い」と、読者に思ってほしいなと。
タイトルにある「小沢健二」。冒頭の「小沢健二編」しかり、「はじめに」「あとがき」でもオザケンへの愛が溢れている。しかしなぜ、「さよなら」なのか。
樋口:思春期に影響を受けた人や作品には、精神的に一生支配されると言うか、価値基準を決められるところがみんなあると思うけど、僕にとって小沢健二がまさにそれ。よくも人の人生をここまで歪めてくれたな!と(笑)。この本は泥で作った、オザケンへのラブレターですよ。まあとにかく、ここでは言い切れないから、この本を手に取って! 「さよなら」の意味もわかるはず。
先述の通り、ヒグタケ小説は膨大なオマージュに彩られている。この『さよなら小沢健二』にあるコラムは小説のそれと比べて「ド直球のオマージュ」と言えよう。今回収録された中で、特に思い入れ深い“3つ”をあげてもらった。
樋口:ん~っと、学生時代に『ロッキング・オン・ジャパン』に掲載された「ロッキング・オンなんて棄てろ 小沢で目が覚めた」はやっぱり思い入れが深いなあ。自分の名前が載っているのを見つけたあのときの空気感、背中のすべての毛穴が開いたような戦慄と興奮、まだ覚えている。今回久し振りに読み返したけど、言ってることが変わらないので笑った。俺ってちっとも成長していない。「基本を忘れない」と言えば、聞こえはいいけど。
町山智浩さんの文庫に書いた解説も印象深いな。400字詰め原稿用紙に40枚も書いているんだもん。短編小説の分量だよ。自分のせいで町山さんの文庫の本は20~30円高くなったはず。だけど町山さんも文春の担当者も怒らなかった。今でもありがたく思う。内容はこれまた町山さんに投げつけたラブレター。町山さんとの出会い、感じたこと、影響を受けたこと、それと評論家論にもなっている。世の中のクソくだらない評論家、書評家は絶対目を通したほうがいいね。
あとは、たけしさんかなあ。僕のオールタイムベストムービーは『ソナチネ』なんだけど、どうしてあの映画が素晴らしいのか、余すところなく書きました。観たことがあるけど、シーンやセリフの意味とか、気付いていない人も多いと思うのでぜひ。あのたけしさんでさえ、過去の映画作品からパクっているということがわかります。
他にもまだまだいっぱいあるなあ。僕の武器は熱量だから、と言うかそれしかないけど、どれが思い入れのあるものか、読んでもらえばすぐにわかると思いますよ。
サブカル人生も長くなると、趣味嗜好は当然変わるもの。しかし樋口氏はブレることなく現役の“サブカル漬け人生”を送っている。
樋口:俺、別にサブカルが好きなわけではなくて、好きになったものがたまたまサブカルなものが多いだけなんだよ……。と、サブカルクソ野郎が言いそうなことを言ってみました(笑)。サブカル漬け人生のいいところも悪いところも何もないよ! 下北のインディーバンドよりも、超メジャーのミュージシャンを好きっていうほうが、よっぱど勇気がいるよ。こないだ、今年の映画興行収入ランキングが発表されたけど、ベストテンにアニメが6作、ぜーんぶテレビCMをバンバン打っていた作品。あんなにサブカル村が騒いでいた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は38位! 俺らは所詮、傍流だよ!
樋口氏は言う。「『さよなら小沢健二』は、EXILEや西野カナ、いきものがかりを聴くような人たちに読んでほしい」。小沢健二に人生を歪められた氏はいま、他の誰かの人生を歪める気満々なのであった。
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ひぐちたけひろ●‘71年、東京都生まれ。’09年に『さらば雑司ヶ谷』で作家デビュー。新刊『ドルフィン・ソングを救え!』(マガジンハウス)が発売中。サブカルコラム集『さよなら小沢健二』(扶桑社)が12月13日発売。そのほか著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』など話題作多数。 なかでも『タモリ論』は大ヒットに。
<取材・文/日刊SPA!取材班>
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