“怪魚ハンター”って稼げるの? 小塚拓矢の働き方「仕事しないでいいように、仕事をしている」
テレビやネットメディアを中心に、“怪魚ハンター”として注目される男・小塚拓矢氏。2017年は著書『怪魚大全』や『怪魚を釣る』を出版。最近では、『有吉ゼミ』など人気番組にも出演し、1月には某オシャレ系ドキュメンタリー番組の出演も決まっているとか……。
ところで、“怪魚ハンター”って稼げるの? 釣りを仕事にするってどういうことなのか。前回に引き続き、そんな疑問をぶつけてみた!
大学生の頃から雑誌ライターをはじめ、次第にテレビなどにも多数呼ばれるようになった小塚氏。メディア全体が経費削減に向かいつつある昨今、したたかな一面も見せる。
「テレビに出始めた頃などは、“学生に毛が生えた程度”だと、良い意味でナメてもらえたことが良かったかなと。たとえばギャラは、タレントを使えば当然高くなりますが、いわゆる文化人(本業が別にある人)枠の僕なら安い。かつ、過酷なロケほど目を輝かせ、急な長期ロケにも対応できる暇人(笑)。ギャラが安い分、放送後はロケ中に撮った写真で雑誌等の記事にする……その辺は事前に了承していただいて、出演を引き受けていました。撮影が終わった後は、多くの場合延長滞在します。もちろん、延長滞在中の実費は自腹ですが、航空券代が浮くだけで僕はありがたい。両者ウィンウィンだったと思いますよ」
小塚氏は現在、ネット通販で釣り具やアパレルなども展開しているという。メディア出演の際には、宣伝したくもなるはずだが……。
「出演するとき、変な広告臭さを出さないことも重要かなと。例えば、関連メーカーのロゴなどが印字された服を着て、ガンガンアピールしてくる“プロ”がいるじゃないですか。ケースバイケースですが、制作側に嫌がられる場合もあることを、裏方だった経験から知っている。なので、基本的に服装は無地にするよう心掛けています」
こうして出演者と裏方と、両方の視点を持つ小塚氏。そのやりがいとは。
「予算があろうがなかろうが、企画出しの段階から携われる番組が、楽しいですね。『ハイ、ここで釣ってください』と全てがお膳立てされての釣りは、物足りない。海外の釣りのガイドサービスは、僕みたいなガチの釣り人に釣らせるのが仕事であって、タレントさんや芸能人など、素人に釣らせることには慣れていない場合も多い。釣りの素人が、わざわざ海外に釣りに行くなんて、テレビのような仕事でもない限り普通あり得ないでしょう? そういうレアケースであることを理解し、ガイドさんと、撮影サイドと、その間の接着剤になるように立ち回るのが僕の役目。自分の釣りはあまりできませんが、僕がやれば釣れるとわかっている状況なら、自分が釣るより人に釣らせるほうが、達成感が大きいです」
メディアの要望に合わせ、フレキシブルに対応する。小塚氏は、たんなる釣り人ではなく、もはや釣りメディアのトータルコーディネーターといえるのかもしれない。
小塚氏は2012年、釣り雑誌のライター業だけではなく、株式会社を起業し、釣り具の製造販売を手がけるようになった。
「フリーランスのライター業だけでも、とりあえず食っていけてました。とはいえ、締め切り間近に体調を壊したときがあって、これはヤバいと。時間をお金に換える仕事は、体力がある若いうちはいいんでしょうけど、歳をとったら絶対にキツいと思った。将来のことを考えたときに、不労所得的なものをなんとか作れないかと」
そんなことを考えていた26歳の頃、釣り業界で知名度が上がってきた小塚氏に「小塚モデルの釣り竿を作らないか?」とメーカーから声が掛かった。提示された条件は悪くなかった。しかし、ここで小塚氏は攻めの姿勢に出る。
「当初、メーカーがすべてリスクを背負ってくれるという話だったんですけど、何度か打ち合わせをして、考えを改めた。僕が必要だと思った竿は、技術的には作れるけれども、コストがかかりすぎる。問屋を介し、小売店に並べる……という従来の流通システムだと、1本7万〜9万円になると言われて。それじゃあ、高すぎる。だから、市場に無いんだと。そこで僕は、むしろチャンスだと思った。メーカーさんにOEM(委託製造)する形で、僕がいったん全部買い取る。そしてそこから、ネットで直販しようと。初回、最小ロットで発注しても仕入れは数百万円……当時の僕の貯金より、全然多かった(笑)。 『売れなきゃ、しばらく旅に行けない!』と、必死に知恵を絞り、開発しました。結果、“名前貸し”のモノには宿らない、魂の竿が完成したと思っています」
完成した釣り竿は飛ぶように売れ……なかったそうだが、数年後には発売前に予約で売り切れる状況になった。それでも、「忙しくなると、旅に行けない」という考えから、必要十分な数しか作っていないという。
「基本的に、仕事したくない(笑)。仕事しないでいいように、仕事をしている。経営者の方って、向上心が強いし、普通そういう方しか起業みたいな面倒なことはしないと思うんですが」
独自の道を歩んでいる小塚氏だが、成り行きで起業したものの、いまは理想とする働き方ができる会社を作ることにもやりがいを感じているという。現在は、社員をひとり雇い、来年はもうひとり雇いたいとか。
「一応、学生時代に就活もしたんですが、バカンスをとれる日本企業が見つからなかった。僕は、収入は平均的でいいけど、休みは普通以上に欲しい、それも、まとまって欲しい。給料は11か月分でいいから、毎年1か月丸々休みが欲しい……みたいな。そんな会社が無いなら、自分の会社を理想に近づけていこうと。社員さんには『生涯この会社で働く!』なんて、思考停止はしないでねと。『いずれ必ず独立して去っていくように!』と入社時に約束してもらっていて、ウチが潰れたら雇ってほしいと(笑)。やっぱり、普通のサラリーマンではないから、リスクもある。将来はなにがあるかわからないから、いざというときに助け合える、苦楽を共にした戦友を増やしていきたい」
制作側の都合もバネにする
時間をお金に換えるだけでは限界があった
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明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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