ビットコインを操る暴力団。覚せい剤の決済にも…元経済ヤクザ・猫組長が語る
経済ヤクザとして暗躍し、海を渡って様々なシノギを経験してきた猫組長。SPA!誌上で漫画家の西原理恵子氏とコラボした連載「ネコノミクス宣言」が単行本として発売される。発売を記念して、本書に収録されたエピソードを公開。ビットコインを操る暴力団の生態を解説する。
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私たちの世代は3度のバブルを経験した。1度目は平成元年をピークとする平成バブル。2度目が20世紀末に米国発で巻き起こったITバブルだ。
そして’17年、ビットコインをはじめとする仮想通貨バブルが起きた。ただし、仮想通貨バブルは前者2つのバブルに比べて狭い世界で起きた出来事であり、言わば局地的なバブルだと考える。
私がビットコインを初めて知ったのは、’11年初頭だった。当時、新しく加入してきた見習いの組員から教えられたのだ。
まだ20歳になったばかりのその青年は、いかにもIT世代を象徴するような若者だった。
「ビットコインが地下経済の構造を変え、犯罪収益の移転を促すことになる」
彼はそう力説したのだが、その時にはまったく理解できなかった。
それから間もなく、麻薬や銃器をネット上で売買するシルクロードがFBIによって摘発され、ビットコインがにわかに注目されるようになる。
シルクロードとは、ディープウェブと呼ばれる、通常では検索できないサイトを利用したマーケットプレイス(市場)である。ヤフーや楽天といったショッピングサイトのアンダーグラウンド版と思えばわかりやすい。
シルクロード事件と同じ頃、地中海に浮かぶ島国、キプロス共和国で金融危機が起こった。
EU加盟国のキプロスは、通貨がユーロであることや地理的な要因から、タックスヘイブンとして重宝されてきた。
特にロシアの犯罪組織を含めた富裕層から、資金逃避先として絶大な支持があった。
そこに突然、キプロス危機が訪れ、預金封鎖が現実味を帯びることとなった。預金を逃がしたいが、銀行間の資金移動は使えない。
そこで利用されたのがビットコインである。顧客は次々と預金をビットコインに替え資産の防衛を図ったのだ。
シルクロード事件とキプロス危機は、ビットコインを一躍有名にした。そして何より、犯罪収益の移転を目的とする集団や個人が、いち早くビットコインに飛びついたのだ。
ビットコインがその匿名性と移転の容易さから、違法な経済活動に利用されるのは必然的と言える。
日本の暴力団も、海外勢に少し遅れて仮想通貨(ビットコイン)が持つ魅力に気づき、地下銀行や覚醒剤の取引に使う者が現れ始めた。皮肉なことに、国内では銀行口座を持つことさえままならない暴力団員でも、ウォレットは簡単に作れたからだ。
私は仮想通貨を「通貨」と呼ぶことに抵抗を感じる。私にとって仮想通貨とは、ブロックチェーンを利用したツールでしかない。そもそも仮想通貨には基礎的な価値、いわゆるファンダメンタルバリューがない。
だが、法の規制で経済活動を封鎖された暴力団にとって、仮想通貨は最高のツールだった。
昨年の仮想通貨バブルでは「億り人」になった暴力団員も多い。株やデリバティブ取引に比べ、口座開設から現金化までのプロセスもいたって簡単だ。
“飛ばし”と呼ばれる他人名義の銀行口座や携帯電話と、同じ名義で仮想通貨の取引口座を作る。
取引で利益が出ても、飛ばしの口座だから税金も関係ない。犯罪で得た収益を仮想通貨に替えて海外のウォレットに送れば、現地通貨に交換することでマネーロンダリングの完了である。
マネーロンダリングやテロ資金の対策を国家間で行うFATFは、「仮想通貨による送金の90%以上が資金洗浄の目的と思われる」との見解を示している。
ブロックチェーンという最先端のテクノロジーが、反社会的な集団に恩恵を与えるとは、なんとも複雑な思いである。<文/猫組長>
送金目的の90%以上が資金洗浄という実態
『猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言』 週刊SPA!誌上で始まった「ネコノミクス宣言」を大幅に加筆・修正、連載開始から2年の時を経て単行本として出版されることとなった渾身の意欲作。相方を務める漫画家・西原理恵子氏による描きおろし漫画も収録、300ページ近いボリュームでお届けする。 |
●猫組長&西原理恵子「ネコノミクス宣言」単行本化記念トークショー
⇒イベントページ
6月2日(土) 19時~
出演予定/猫組長、西原理恵子、ほか未定
前売1000円/当日1300円
※前売券SOLD OUT!! 当日券は若干枚数、販売致します。当日券ご希望の方には18:00から18:25までLOFT9店頭にて整理券を配布します(希望者多数の場合は抽選となりますので、ご了承下さい)。当日券のご入場は18:50からとなります。 詳しくはロフト9のHPにてご確認ください。
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