pato「おっさんは二度死ぬ」――豪快で、爽快な大どんでん返しを味わってみてほしい<書評・吉村智樹>
「おっさん」「キモい」「死ね」
これは、人気Webライターpatoさんが初めて上梓する小説「おっさんは二度死ぬ」のなかに登場する言葉。女子高校生の娘が、実の父親に向けて放った罵声だ。
そして、「おっさん」「キモい」「死ね」の3つの呪いの言葉は、小説の最後まで極めて重要な意味を持ちながら展開される。
小説「おっさんは二度死ぬ」は、いまいち人気が出ないデリヘル嬢カエデが、なんら性的サービスを要求してこない奇妙な壮年男性客から、ひたすら「キモいおっさん」のエピソードを聞かされ続ける、言わば地獄の密室劇。
ラブホテルの部屋で、デリヘル嬢カエデと謎の男性客が、ふたりきり。男性客からの「本当におっさんは死ぬべきであろうか?」という問いに、どうでもいいわと思いつつ、カエデはテキトーな返答をする。しかしながら同じ状況が数日に亘ってリフレインするうちに、次第に心のなかで鍵をかけていた屈辱の記憶ファイルが解凍されて、やがてカエデは救いの光のなかで輝く。
シンプルな設定ながら、謎の男性客から繰り出されるキモいおっさんたちの逸話が、えげつなくおもしろい。ペーソスに富み、読めば涙が出るほど爆笑だ。でも、だからといって現実に目の前で長々と話されたら、たまったもんじゃない。そのウザみの塩梅が絶妙なのだ。
そして、それらキモいおっさんたちの哀しい物語の数々は、どれもこれもが伏線であり、秀麗な回収の手さばきには、惚れるなと言われても無理だ。この「おっさんは二度死ぬ」は、貴品が香る極上のミステリー小説でもある。ホテルの窓を開け、大きな声で「このミステリーがすごい!」と、街へ向かって叫びたい。
さすがだ。patoさんといえば、2000 年代初頭からWebで活躍し続ける、言うなれば電子文壇の開拓者。「ひとつ読了するのに30分かかる」と言われる膨大な文字数のWeb記事は、つねに小賢しくて貧乏くさいSEO対策なるものの対極で神々しく屹立していた。スマホユーザーの30分間を文字で独占する話術と胆力が、小説にもいかんなく発揮されている。
読みながら「このキモいおっさん、俺のことだよな……」と身につまされる中高年男性は少なくはないだろう。読み進めるうちに、蓋をしていた自分自身の「身に覚え」が蘇る。共感性羞恥にのたうちまわりながら、読者はゆっくりと、しかしながら残酷に、心の薄皮がはがされてゆく。
大きな声で「このミステリーがすごい!」と、街へ向かって叫びたい
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『pato「おっさんは二度死ぬ」』 “全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"―― |
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