2000年代のAV業界や自らのAV出演経験を描いた、峰なゆかの半自伝的作品である
『AV女優ちゃん』2巻が発売中の峰なゆかと、国民的ダークヒーロー漫画『闇金ウシジマくん』に続き、法とモラルを描く『
九条の大罪』の漫画家、真鍋昌平が対談! モラルや正論だけでは救われない人間たちを描き続ける真鍋は、AV業界におけるモラルをどう読んだのか。峰なゆかと語った。
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女を商品化するまでの葛藤がすごく良かった
峰:今日は、久しぶりにお会いできてうれしいです! 多分10年ぶりぐらいですよね。
真鍋:え、そんなに前だっけ……。以前お会いしたときは、僕が峰さんに取材をさせてもらったんですよね。取材の後、飲んでいたら峰さんがものすごく怖い顔で、「死にたい」って話していて……。
峰:わ~! なんか、私、そのころめっちゃ病んでましたよね!
真鍋:その後、ご結婚されてお子さんが生まれて、状況も変わりましたか?
峰:今は毎日、イキイキライフを送っています! 仕事の合間に子どもちゃんを見るのが、最高の休憩タイムですね。今日は、子どもちゃんが熱を出しちゃったんですけど、夫が仕事を早退して保育園に迎えにいっているところです。うちは、家事も育児も夫が大体全部やるシステムなんです。
真鍋:すごいなぁ、めちゃくちゃいいパートナーの方ですね。今、子どもを産もうか迷ってる人にとっては、すごく希望になる話だと思います。
峰:夫のことは、結婚前からベタぼれしていたわけじゃなくて、ずっと「いいヤツだな~」くらいの感じだったんです。でも、子どもが産まれてからガラッと変わりましたね。3秒に1回くらい「死んでない? 死んでない?」と赤ちゃんが息をしているか確認して、夜中も起きてずっと面倒を見ていて。その偉大なる父ぶりに「なんて素敵な男なんだ!! しゅき♡」ってなりました(笑)。
真鍋:いやあ、よかった。実は10年前に峰さんが「死にたい」と言っていたことがずっと心に残っていたんです。そして今回、改めて『AV女優ちゃん』を読んで「ああ、あのとき峰さんがそう言っていたのは、こんな状況があったからなのか」と思いを巡らせました。
峰:そんなこと思ってもらっていたんですね!
中学時代は地味な見た目で、まわりに「ゴリ」「ゲソ」「ドブ」と呼ばれていた(『AV女優ちゃん』1巻より)
地元で一番偏差値の低い高校へ進学し、ギャルへと変身を果たす(『AV女優ちゃん』1巻より)
真鍋:これは第1巻の話になるんですが、俺、峰さんがAV女優になるまでのストーリーがめちゃくちゃ好きなんですよね。中学時代に女として扱われていなかった状況から、高校でギャルになって、女を商品化するまでの葛藤がすごく良かったです。あとは、サイン会にやってき脚の不自由な男性が、AV女優の峰さんを罵倒してきたり。「人は自分よりも立場の弱い人間を叩く」と悟ってから、過去の話に入っていく展開も秀逸ですよね。何か偉そうですみません。
峰:わ~! うれしいです! あのシーンは自分でも「私、めっちゃ漫画の展開の切り替え上手じゃん!」と思ってました(笑)。そして「きっとこれ、真鍋さんも好きだろうな」とも思っていましたね。というのも私、クズい人間って昔から好きというか、なぜか興味があるんですよ。クズ、という表現をあえてしますが、あんまりいいとは言えない環境に生まれて、悪い奴らが周りにたくさんいて、自分からダメになろうとしている人、というか。わざわざサイン会にまで来てAV女優を自分より下の人間として罵倒する男性もそうだし、私が通っていた底辺女子校の子たちも、AV女優もそう。そして真鍋さんは、私以上にクズい人間が大好きですよね?
真鍋:そうですね。葛藤があるものがすごく好きだし、そういうものをしっかり描こうと思ってますね。
峰:『闇金ウシジマくん』そうですし、現在連載中の『九条の大罪』でも、クズがたくさん出てきますよね。主人公も弁護士という世間的にはステータスのある職に就いていながらも、バツイチで、ビル屋上でテント生活をしている……というなかなか「クズみ」のあるキャラクターです。そして彼の周りの人物も半グレやヤクザ、前科モチとなかなか濃いですが、彼らの細かな描写がすっごく好きなんです! 「クズ描写の大先輩」として、本当に尊敬しています!
『九条の大罪』2巻(ビッグコミックス)
真鍋:ウシジマくんは闇金業者、つまり違法な存在なので、それ自体に嫌悪感を抱く人も多かった。でも今回は弁護士が主人公なので、より多くの人に観てもらえて、なんなら「月9のドラマも狙えるかな」とも思っていたんですが、描き始めたらとても月9で放送できるような内容にはならなくて……(苦笑)。
峰:私も『AV女優ちゃん』を月9にしてほしいって思ってるんですけどね(笑)。 あの、ずっと聞きたかったんですけど、真鍋さんのその「クズい人間」への愛情って、どこから来てるんですか?
真鍋:自分を見ているような感じですかね。(即答で)
峰:えー! 真鍋さんは全然クズじゃないじゃないですか!
真鍋:いやいや。以前、取材ということもあってコロナ禍なのに外に飲みに出かけて、家族からヒンシュクをかって家を追い出されたこともありますし、家事や育児はほとんどできていないし……。