更新日:2022年01月27日 20:00
エンタメ

峰なゆか×真鍋昌平対談/「クズ」と 言われる人間を描き続ける二人が考える「モラル」

自分をクズじゃないと信じる人たちの傲慢さ

峰:10年前、真鍋さんと取材終わりに飲みに行ったとき、私は口説かれたりすんのかなと思ってたんですが、奥さんとお子さんの写真を私に見せながら「かわいいでしょう、えへへ」って言ったのを覚えています。そのときは、「なんていい男だ!」と思いました(笑)。 真鍋:え、そんなこと言いましたっけ。
峰なゆか

「いまだに田舎のヒエラルキーの価値観をひきずっているのかもしれない」(峰)

峰:私が最近耳にしたクズエピソードは「今日こそ女子大生とセックスできるかもしれない!」と期待した既婚者の中年男が、居酒屋のトイレでチンコをおしぼりで拭いてきた……っていう話ですから。そんな「リアルクズ」と比べたら、真鍋さんが自分のことをクズ呼ばわりするなんて、クズい人間に失礼ですよ! 真鍋:確かにそう言われたら……(笑)。 峰:私は底辺女子校時代、どうしてもキティちゃんサンダルが履けなくて、コンビニのレジ袋をバッグ代わりに使うことも出来なかったんですよ。それだけは美意識としてダメでした。自分がクズになりきれない、一抹のもどかしさを感じてました。

何でも「自己責任」で断罪してしまうのは違うと思う

真鍋:以前、取材で生活保護受給者の自宅へ行ったんですけど、その人、鼻炎がひどくて、部屋には布製のマスクがズラッと干してあったんです。でも普段、寝ているベッドの周りを見たら、1cmくらいホコリが溜まってるんですよ。それを見て「ひょっとして鼻炎って、これが原因じゃないの!?」と思ったことがあって。いろいろツッコミどころを感じながらも、そういう感じの人って、つい惹かれてしまいますね。 世間的な基準で言えば「まず掃除しなよ!」って話なんだけど、彼らは彼らで自分なりのルールに従って真剣に生きているし、それを単純に嗤ったり、クズ扱いしたり、それこそ生活保護受給者に対してよく使われる「自己責任」という言葉で断罪してしまうのは違うんじゃないかなと思うんです。 峰:今思い返すと、私がいたころのAV業界も、女優も男優も変な人が多かったですね。でも好きなんですよね。その理由を考えたら、私の場合は、昔からの憧れが大きいかもしれませんね。私の地元では、不良的なクズがヒエラルキーのトップに君臨していたので、いまだにその価値観を引きずっているのかもしれない。 もちろんそんなのあくまでも田舎のごくごく一部の話なんですけど。そんな価値観、東京に来たら意味がないものだとわかっていても、「ボス猿になりたい」という憧れが大人になっても抜けきれないんです。
峰なゆか

「世間で『おかしい』とされていることの中にも、正しさがあったりする」(真鍋)

真鍋:クズもいろいろで、ギャンブルに依存して堕ちていくような「自己完結型のクズ」と、不良や輩(やから)の道を極めてノシ上がっていく「出世型のクズ」にわかれると思うんです。堕ちていく人を見ると、「ひょっとしたら自分もそうなってしまっていたかもしれない」と思うし、出世型のクズを見るとアウトロー的なヤバさを感じると同時に、峰さんのいうような憧れを持つ人も結構いますよね。 峰:私も真鍋さんも、真性のクズかは疑問ですが(笑)、自分を「絶対にクズじゃない」と頑なに信じている人たちの傲慢さもあると思うんです。私はこれまで一般の人に「なんでAVに”出ちゃった”んですか?」って聞かれたことが何度もあるんです。そういう経験をすると、なんだか「クズのほうが好き!」って思っちゃうんです。 真鍋:世間的には「良し」とされていることの中にも、おかしなことはあるし、逆に世間で「おかしい」とされていることの中にも、正しさがあったりしますよね。 ●峰 なゆか 漫画家。女性の恋愛・セックスについての価値観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼ぶ。『アラサーちゃん 無修正』(全7巻)、『アラサーちゃん』(KADOKAWA)はシリーズ累計70万部超のベストセラーに ●真鍋昌平 漫画家。神奈川県茅ヶ崎市出身。社会の底辺にいる人々の生活や心理を克明に描き続ける。代表作『闇金ウシジマくん』ドラマ化・映画化もされた。現在『ビッグコミックスピリッツ』で『九条の大罪』を連載中 (取材・文/アケミン 撮影/加藤 岳)
週刊SPA!をはじめエンタメからビジネスまで執筆。Twitter :@AkeMin_desu
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※対談の完全版は『AV女優ちゃん』2巻でお楽しみください。
AV女優ちゃん2

『アラサーちゃん』の峰なゆかが描く渾身の自伝的漫画第2巻!

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