更新日:2023年05月19日 14:11
ライフ

アメリカと日本でこんなに違う子育て事情。「日本の少子化は必然」と感じる理由

 2月28日の厚生労働省の発表(人口動態統計の速報値)によれば、2022年の日本の国内出生数は、統計開始から初めて80万人を割り込み、国の想定より10年以上早く少子化が進んでいることがわかった。もはや待ったなしの状況で、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」が論争を呼んでいる。
アメリカ西海岸

アメリカ西海岸では、IT企業を中心に人々はカジュアルなワークスタイルを貫く。リモート勤務者も多い

 20年前に日本を離れてアメリカで暮らし子育てをする筆者が注目するのは、その3つ目に当たる「働き方改革」だ。

金銭的負担の伴うアメリカの子育て

子育て

とにかくお金がかかるアメリカの子育て。しかし、パンデミック中のリモート勤務でゆとりができたせいか、2021年に出生率が15年ぶりに上昇

 共働きが当たり前のアメリカだが、じつは日本のように充実した公的産休・育休制度は存在せず、4人に1人の母親が産後2週間で職場復帰しているというデータもある。しかも、年間保育料は全米平均で1万4000ドルと言われ、日本円にすると約190万円の出費となる。  それを考えると、国や自治体からの支援が手厚く、公費負担により長期の産休・育休が用意され、保育料が激安となる日本のなんと恵まれていることか。今回の「異次元の少子化対策」による1つ目「児童手当など経済的支援の強化」、2つ目「学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充」では、さらなる金銭面でのサポートが見込まれている。  でははたして、日本人は“育児にお金がかかるから”という理由で結婚や出産を躊躇しているのだろうか?   2人目、3人目の出産なら、たしかにそういうことも大きいかもしれない。ただ、アメリカ人は日本のような公費負担によるサポートがほとんど期待できなくても、産む人は産んでいる。働く女性の目線で思うのは、「異次元の少子化対策」の成功は、その3つ目「働き方改革の推進」次第なのでは、ということだ。

20年経っても変わっていない? 日本の残業文化

 日本にも子どもがたくさんいた時代はあった。高度経済成長を支えた団塊世代と、その子どもに当たる団塊ジュニア世代が生まれた頃だ。それぞれ第一次ベビーブーム、第二次ベビーブームと呼ばれた。しかし、バブルが崩壊し、団塊ジュニア世代は就職氷河期の影響をもろに受けてしまった。  正社員採用が狭き門となった結果、多くが非正規労働を余儀なくされ、人員削減により仕事量は増えても、バブル期までのような昇給も福利厚生も期待できない負のスパイラルに突入。都心で働く結婚適齢期の男女が、平日は終電まで残業を強いられ、週末は疲れ切って目が覚めると、もう日が傾いている。そんな生活を送っていては、結婚や出産を考えられるはずもない。当然、第三次ベビーブームは起きなかった。現在の少子化は、当時の失策が尾を引いているのであろう。  現地ライターとして、これまでアメリカの子育て事情についての記事を日本語メディアに寄稿してきた。日本で働き方改革が叫ばれて久しいが、記事の反響を見る限り、20年経っても日本人の意識があまり変わっていないようで驚く。そして、日米の働き方の違いを痛感するのだ。  日本には、社員そろっての残業や夜遅くまでの「飲みニケーション」を美徳とする文化が根強く残っている。高度成長期にはなくてはならないものだったのかもしれないが、時代は変わった。  コロナ禍の真っ只中では「飲み会禁止令」が出される企業も少なくなかったが、今ではすっかり元通りになりつつある。  これがなくならない限り、出生率低下もワンオペ育児も解消には至らないのではないか。
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夫婦で育児参加できる働きやすい社会に
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アメリカ・シアトル在住。エディター歴20年以上。現地の日系タウン誌編集長職に10年以上。日米のメディアでライフスタイル、トレンド、アート、グルメ、カルチャー、旅、観光、歴史、バイリンガル育児、インタビュー、コミック/イラストエッセイなど、多数の記事を執筆・寄稿する傍ら、米企業ウェブサイトを中心に翻訳・コピーライティング業にも従事。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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