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子どもの自死が増加する「9月1日問題」。“声を出して相談ができない問題”への対抗策が模索される

 夏休み明けに子どもの自死が増加する社会現象が「9月1日問題」と呼ばれて久しい。   NPO法人東京メンタルヘルス・スクエアは、本年8月30日〜9月3日の期間限定で、「こどもアバターホットライン」を導入した。同法人は日々の業務として、臨床心理士や産業カウンセラー、公認心理師によるSNS相談を受け付けているが、今回のようにZoomのアバター機能を使用して相談を受け付けるのは初めてのこと。日本でも前例のない取り組みだという。  同法人で副理事長を務める新行内勝善氏への聞き取りを行い、新たな技術導入の意図とこれからの相談事業のあり方を探るとともに、カウンセラーとして向き合う際の矜持を聞いた。  
新行内勝善氏

新行内勝善氏

「アバターだからこそ」の安心感も

――今回、貴法人が期間限定で行った「こどもアバターホットライン」における“アバター”の役割と意図について聞かせてください。 新行内勝善(以下、新行内):端的に申し上げると、相談の手段を多様化させたいという意図があります。私どもの法人で日々行っているSNS相談は、いわゆるチャットのような形式で文字によるやり取りが主体であり、相談時間が決められています。人によっては、文字でのやり取りでは得られる情報が限られてしまいます。また、相手がどんな人なのか、文字だけでは見えづらい短所もあります。とはいえ、ようやく私たちに繋がってくれた、心に傷を抱えた相談者に、対面相談をお願いするわけにはいきません。アバターであれば、相手がそこにいる安心感は残しつつも、プライバシーは保護されます。アバターという仮面があれば、対面とさほど変わらない情報量でのやり取りを維持しつつ、普段は言えない内面を吐露してくれることも期待できます。

「声を出せない相談者」のニーズに応えたい

――相談内容としては、どのようなものが多いのでしょうか? 新行内:やはり生きづらさに関する相談が多いです。学校で友人ができない、イジメに遭っている、登校できない……といった対人関係におけるトラブルを抱えている子どもは少なくありません。あるいは、進学に関する悩みを抱えている子どもの相談もあります。 ――5日間の試験的導入での実感を聞かせてください。 新行内:実は相談者は5日間で8名と、想定よりもだいぶ少数に留まりました。そのうちの数名が「声を出せないので文字のやり取りがいい」ということで、Zoomでのチャット相談になりました。家庭の環境によっては、私どもに相談することさえも秘匿しなければならないのかもしれません。家の中ではさまざまな理由で、声を出しての相談ができない相談者がいるため、新しい相談手段を導入するとしたら、そうした事情をどのようにクリアするかという課題がみえてきました。
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「相談したくても相談できない」という子どもを一人でも減らしたい
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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