杉作J太郎が選ぶ「客に媚びないトンデモ映画」
―[悶絶![トンデモ映画]ベスト42]―
世の中には一般的常識をはるかに超えた映画がある。超大作のはずがトホホな感じだったり、芸術的すぎて意味不明だったり、エログロすぎて正視できなかったり……。そんないろんな意味で“すごい映画”を8人の選者がセレクト。秋の夜長に、ぜひお試しあれ!
【杉作J太郎】
’61年、愛媛県生まれ。男の墓場プロダクション代表。漫画家・映画監督・脚本家など多彩な顔を持つサブカル界の雄。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』などがある
◆トンデモ映画って要は観客に迎合しない作品とも言えます
最初にご紹介したいのは『怪談昇り竜』。一見、怖い映画かと思いきや、基本は女任侠モノ。でも、冒頭では主人公が刑務所にいて、女囚モノみたいな印象も。上半身は三つ揃いなのに下半身はフンドシ一丁というキャラが出てきたり、随所にギャグを挟んできたり、怖がらせたいのか笑わせたいのか泣かせたいのか、意味不明です。
『恐竜・怪鳥の伝説』は、怪獣映画のようで実はパニック映画。古き良きチープさ溢れる特撮は明らかに怪獣映画のノリ。そうなるとナンチャラ警備隊とか、せめて自衛隊くらい出てきてほしいところだけど、恐竜たちに対峙するのは町の消防団ですから。それも逃げ回っているだけ。誰も立ち向かわない、希有な特撮怪獣映画ですね。
ハードボイルドな人気劇画を基にした『ドーベルマン刑事』は、原作の無視っぷりが秀逸。主人公は沖縄から来た麦わら帽子の田舎刑事で、ドーベルマンではなく、なぜか黒豚を引き連れているんです。で、扱う事件はドロドロとした芸能界の暗部。シュールでしょ。
『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』は、左右の足を牛に引かせて股裂きにする江戸時代の死刑をグロテスクに描写した時代劇。普通、物語ってどこかに光明があるものだけど、権力者が無慈悲に拷問を与えたりと、一貫して冷酷なんです。最後には、残忍奉行が拷問の功績を認められてのちに出世した、なんて理不尽なナレーションが入ったり。まったく救われない話だけど、海外で妙に評価が高いんですよ。
最後は『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』です。テレビ版を高く評価して、楽しみに観に来た観客の期待を一切無視。それどころか「オマエら気持ち悪いんだよ」とケンカまで売るような演出が衝撃的でした。印象的な音楽やカット割り、実写とアニメを融合させた美しい映像表現など、作り手の鬼気迫るような執念が全編からほとばしっていて、本当に大好きな作品ですね。
このエヴァも然りですが、トンデモ映画って、要は観客に無闇に迎合しない、作家志向の強い作品と捉えることもできます。映像表現としては、こちらのほうが正直で誠実なのかもしれません。
<杉作J太郎氏が選んだトンデモ映画>
『怪談昇り竜』(’70)
監督・脚本/石井輝男、脚本/曽根義忠、出演/梶芽衣子、ホキ徳田、佐藤允ほか
『恐竜・怪鳥の伝説』(’77)
監督/倉田準二、出演/渡瀬恒彦、林彰太郎、沢野火子、津島智子、牧冬吉ほか
『ドーベルマン刑事』(’77)
監督/深作欣二、出演/千葉真一、ジャネット八田、松方弘樹、岩城滉一、松田英子ほか
『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』(’76)
監督/牧口雄二、音楽/渡辺岳夫、出演/風戸佑介、内村レナ、汐路章、岩尾正隆ほか
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(’97)
監督/庵野秀明、鶴巻和哉、声の出演/緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、三石琴乃ほか
― 悶絶![トンデモ映画]ベスト42【5】 ―
『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』 杉作J太郎初の小説! |
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