佐々木俊尚氏が語る「事件報道の行間の読み方」
「むしゃくしゃしてやった」「ムラムラしてやった」など、事件報道には日常ではあまり使わない特有のフレーズがある。ほかにも「バールのようなもの」とか「みだらな行為」とか、気になる言い回しがいろいろ。そんな事件報道における定番用語のナゾを元事件記者の佐々木俊尚氏に聞いてみた!
◆曖昧に書かれた記事の行間から見えるものをいかに読むかが大事
警察が情報を出す側なので、そういう意味ではマスコミより力関係は上。だから記者は“夜回り”で何十回も警察官の自宅まで足を運んで情報をもらうわけです。たまに大したことない警察の不祥事ネタが入ってきて、それを報じない代わりに重要な事件の情報をもらったりといった取り引きもありますが。
警察官が事件の情報を記者に漏らすのは厳密には地方公務員法違反ですが、それを言ったら日本の新聞は成り立たないし、国民の知る権利はどうなる、みたいな話にもなる。まあ、そのへんはグレーゾーン。警察と記者は微妙な関係なんですよ。
だから、事件記事で「関係者によると」というのは往々にして警察官から得た情報。「当局発表」とは書けないから濁した表現になる。また、たとえばまだ当局の捜査が入ってない企業の粉飾決算を独自に追っていて元役員の証言が取れたような場合も「関係者」となる。「元役員」なんて書いたら、情報提供者が特定される恐れがありますからね。
ウラ読みという点では、明らかにその人物が犯人だろうけど、まだ逮捕されてないというケースも面白い。犯人の可能性が高い人物に「さん」づけはしづらい。かといって、まだ捕まっていないから「容疑者」とも書けない。そういうときは名前を出さず、和歌山カレー事件のときみたいに「近所の主婦」のような書き方をする。逆にいえば「さん」づけで報じられている人物は、まず逮捕されないと見ていいでしょう。
同様に、妻の殺害事件などで「夫が何らかの事情を知っているものとみて行方を探している」と書いてあったら、夫がほぼ犯人ですね。
だいたいがストレートには書かれていないので、記事の行間から見えるものをいかに読むかが大事です。あまりにも「関係者」とか曖昧な表現ばかりで内容がぼやけてしまっているのは悪い記事。逆に、具体名がある程度出ていて、行間から事件の背景を推察することができるのが、いい記事と言えるでしょうね。
【佐々木俊尚氏】
’61年生まれ。毎日新聞社で約12年間、事件記者として活躍。出版社を経て’03年からフリージャーナリストに。『「当事者」の時代』ほか著書多数
取材・文/石島律子 漆原直行 昌谷大介(A4studio)
イラスト/カネシゲタカシ
― 事件報道の[ありがち用語]ウラ読み辞典【11】 ―
『「当事者」の時代』 弱者や被害者の気持ちを勝手に代弁する時代 |
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