戦争、上京、ハゲ…この漫画が泣ける!【南信長さん推薦】
―[[鉄板で泣ける名作]40選]―
最近、いつ泣きましたか? 感動の涙には、日頃たまったうっぷんを解消する効果があるそう。疲れた心の修復と明日への活力のために、その道の達人が、必涙の傑作を推薦! 今回はマンガ解説者の南信長氏が泣けるマンガを紹介する。
◆マンガ…物語の中のリアルな人生と生きたキャラに涙
これで泣かなきゃ人間じゃないレベルの名作としてまず頭に浮かぶのが、原爆の傷跡を描いた『夕凪の街 桜の国』(こうの史代)。ただ、これまで何度も紹介しているので、今回はあえて同じ作者の『この世界の片隅に』を推します。広島から呉に嫁いだ娘を中心に、戦時下の生活を丁寧に描いた作品。戦争の理不尽さが身の丈サイズで伝わってきて胸が詰まります。
『すみれファンファーレ』は両親が離婚してお母さんと二人暮らしの小4女子が主人公。基本は軽やかで温かい物語なのですが、すみれちゃんの優しく健気な姿を見ていると、もう辛抱たまりません。
個人的にグッときたのが『おのぼり物語』。作者自身が駆け出し漫画家として上京した頃の体験を綴った4コマなんですが、“何者でもない自分”への不安と焦燥は、誰しも経験のあることでしょう。しかも物語後半、思わぬ事態が発生し、より深く我が身を見つめ直すことになる。悲しい出来事と売れないギャグ漫画家という立場が交錯するラスト近くのシーンには、本気で号泣しましたね。
いかにも“泣かせ”な作品では逆にシラけて泣けません。物語の中に本物の人生がある、キャラが生きているからこそ泣けるんです。
●『この世界の片隅に』
(こうの史代 双葉社/上・中・下巻)
呉市を舞台に、昭和18年から21年までの時代を描く。「一見ほのぼのしてますが、すごく挑戦的な作品。玉音放送を聞いたときの主人公のセリフには苦い涙があふれます」
●『すみれファンファーレ』
(松島直子 小学館/既刊2巻)
「礼儀正しく思いやりがあり、自分より他人を優先するすみれちゃん。お父さんの再婚相手にまで気を使うなんて、いい子すぎて目頭が熱くなる。キャラ自体が反則ですよ(笑)」
●『capeta』
(曽田正人 講談社/既刊31巻)
負けん気の強い少年がカートからF1をめざす本格レースマンガ。「経済的問題も含めて期待と責任を背負った主人公が性能の劣るマシンで必死に戦う姿に感涙です」
●『おのぼり物語』
(カラスヤサトシ 竹書房/全1巻)
連載の一本もないまま29歳で上京した作者の運命は……? 「ありがちな上京エピソードも作者特有の妄想力で奇妙な味わいに。イタい笑いが叙情の域まで昇華していて、涙なしには笑えません」
●『僕は髪の毛が少ない』
(新井キヒロ メディアファクトリー/全1巻)
20代半ばから薄毛に悩み、ついにスキンヘッドにした作者によるエッセイコミック。「ポジティブハゲを推奨する内容ですが、悩んでいた時期の描写は男なら泣けるはず」
【南 信長氏】
’64年、大阪府生まれ。マンガ解説者。『朝日新聞』『フリースタイル』などで連載中。著書『現代マンガの冒険者たち』(NTT出版)。マンガの中の食の描写を解説する新刊が今夏刊行の予定
― [鉄板で泣ける名作]40選【4】 ―
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