更新日:2013年07月02日 17:21
スポーツ

「マイナーリーガー・川崎宗則」の1日

川崎宗則

マイナー降格に気落ちした素振りも見せず、変わらぬムネリンスマイルを見せた川崎。バイソンズを取材する現地記者も「フィールドに足を踏み入れたその瞬間から、彼は決して笑顔を絶やさない」と

「ブルージェイズファンの皆さん、最高のニュースだ。ムネが帰ってくるぞ!」  MLB公式サイトは、川崎宗則のメジャーリーグ復帰を大々的に報じた。正遊撃手ホセ・レイエスの戦列復帰に伴い、1度はマイナーリーグに降格した川崎。しかし2日後、レギュラー外野手メルキー・カブレラの故障者リスト入りを受け、僅か48時間で急遽メジャーへと呼び戻された。  ある意味、メジャーリーガーの醍醐味とも言えるローラーコースターのような日々を堪能したムネリン。晴れてメジャー復帰を果たしたが、華やかなメジャーリーグの舞台からマイナーリーグに戻って過ごした1日にこそ、プロ野球選手・川崎宗則の魅力が詰まっていた。 ◆3Aでも全力プレー。大人気だったムネノリ・カワサキ  現地時間6月26日、川崎はブルージェイズ傘下、3Aのバッファロー・バイソンズに合流し、ジョージア州グイネットで行われた試合に早速スタメン出場した。グイネットはアトランタ・ブレーブス傘下に属する3A球団の本拠地であり、トロントからはかなり離れた場所だが、ここでも川崎は大人気だったという。川崎の写真を持ち込み、サインを貰う地元ファンまでいたようだ。  この試合を観戦した、アトランタ在住の倉本幸典さん(ブログ⇒http://ameblo.jp/kuramoto-style/entry-11562714243.html)は「注目度の低いマイナーの試合でプレーする川崎選手を見て、彼がどれだけの思いと覚悟で野球に向き合っているかわかった」と話す。  たとえば、イニング毎に行われる内野手の守備練習。ルーティン化して淡々とこなす選手が多いなか、川崎は二遊間の逆シングルキャッチを試合中と全く同じテンションでプレーするなど、様々な打球処理を想定して一球一球を大事にこなしていたという。また、ゲーム中のイレギュラーバウンドを極力少なくするため、守備につく際は必ず外野の芝生を通ってからポジションについていたそうだ。目の前の芝を傷めない、小さな気遣いだ。  急なチーム合流だったものの、コミュニケーションもバッチリ。フィールドではリーダーシップを発揮し、セカンドの守備位置からチームメイトに常にアウトカウントを伝えていた。それも一人一人の選手と、目が合うまで確認作業を怠らなかったという。  走攻守全てで、代名詞ともいえる全力プレーを見せた川崎。当たり前と思えるかもしれないが、メジャーからマイナーに降格した直後の選手には、明らかに集中力を欠いたプレーをする選手も少なくない。「プロの舞台で基本的なプレーのひとつひとつを徹底して、さらにそれ以上をこなす川崎選手の野球への情熱に感銘を受けました」と、倉本さん。
川崎宗則

敵地でのゲームにも関わらず大人気だったムネリン。川崎の写真を大量に持ち込みサインを貰った地元ファンの姿も

 もちろん、ファンサービスも怠らない。「ファンに声を掛けられたら一言でも必ず返事をしていました」。マイナー降格に気落ちした素振りも見せず、変わらぬムネリンスマイルを見せる川崎の姿を、バイソンズを取材する現地の記者も「フィールドに足を踏み入れたその瞬間から、彼は決して笑顔を絶やさない」と絶賛した。  好守に活躍した試合後には、持ち前のエンターテイナーぶりも発揮した。チームメイトが帰りのバスに乗り込む際、ヒメネスという選手が球場から中々出てこず、川崎は「俺がヒメちゃん迎えに行ってくる!」と日本語で宣言し球場に戻ったという。その後、ヒメネスを連れてきた川崎は冗談で「みんなを待たせたんだから一番前に乗れよ!」と、普段は誰も座らない助手席にヒメネスを乗せ、バスの中では笑いが巻き起こっていたとか。バイソンズはこの日試合にも敗れ選手たちは疲れていたはずだが、ムードを一変させたムネリンは流石だ。  その愛されキャラ故、話題性が先行しがちな川崎。その素顔は誰よりも野球を愛する根っからの野球少年であり、そしてプロ中のプロ。周囲に愛されているのは、ただ“変な外人”だからではなく、プロ野球選手としての姿勢が言葉や文化の壁を越えて受け入れられているからなのだと、改めて痛感した。  メジャーに復帰したとはいえ、立場が厳しいことに変わりはない。それでも「どんな状況でもやることは同じ。特別に変えることはない」と話す川崎。真のプロフェッショナルにとって、プレーする場所は関係ないのだ。 <取材・文/スポーツカルチャー研究所> http://www.facebook.com/SportsCultureLab 海外スポーツに精通したライターによる、メディアコンテンツ制作ユニット。スポーツが持つ多様な魅力(=ダイバーシティ)を発信し、多様なライフスタイルを促進させる。日刊SPA!ではMLBの速報記事を中心に担当
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