五感と融合し、さらに進化するVR(仮想現実)
『アバター』や『マトリックス』、『サマーウォーズ』など、さまざまな作品の題材にもされ、まだ日常生活で身近な技術までには達していないものの、広く知られているバーチャルリアリティ(VR)。これらの研究が今、新たなフェーズに入っているという。
首都大学東京の池井寧教授はこう語る。
「今までは、VR空間の中に入ったり、映像を見たりして、仮想の世界を体験するものが主流でした。ですが、今、私どもが研究している『超臨場感』システムは、自己の体そのものもメディアとして利用することで、他者の体験を自分のものとして追体験することを可能にしています」
⇒【写真レポート】首都大学東京のバーチャル身体による「超臨場感」はコチラ https://nikkan-spa.jp/467741
視覚、聴覚のほかに、触覚、嗅覚、前庭感覚も刺激し、座っているだけで旅行の現場など、他人がした体験を丸ごと体感できるのだ。
また、視覚による「微触感」システムを研究する早稲田大学の河合隆史教授も同様に「複数の感覚刺激が組み合わさることで、再現の難しい感覚を補完したり、臨場感を提示したりする可能性を研究しています」と言う。河合教授は、炎や氷の立体映像を見ながら、その映像に手を重ねることで、温感や冷感などの微弱な触感を提示するシステムを研究している。
⇒【写真レポート】早稲田大学の強化現実を利用した「微触感」システム https://nikkan-spa.jp/467741
◆五感×VR技術は日常に応用できるのか
これらの技術は、近い将来、日常生活で使えるものになりうるのだろうか。東京大学の廣瀬通孝教授が研究する「拡張満腹感」は、手に持っている食べ物の映像が拡大されて見えることで、満腹感を誘発するというもの。いかにもダイエットに応用できそうである。
「この技術だけでダイエットに役立つかというと、そう単純ではないですが」と廣瀬教授は説明しつつも、実際、周囲から期待はされているよう。
⇒【写真レポート】東京大学の映像による「拡張満腹感」はコチラ https://nikkan-spa.jp/467741
一方、池井教授の「超臨場感」システムに関しては商品化も視野に入れている。
「今は実験装置の段階なので大がかりですが、もう少しコンパクトにして家庭用にアレンジはできます。実現すれば、外出が難しい年配の人が家にいながらの旅行を可能にするほか、今まで口頭や視覚でしか伝えられなかったスポーツや芸術などのプロの体の動きを追体験することで、技を体で覚えられるなど、教育にも役に立つはずです」
◆“主観的”な五感を科学はどう扱う?
ただ、五感や感覚というのは“主観”であり、数字やデータで表すのが難しいもの。“客観”で成り立っているテクノロジーの分野に、そううまく融合できるものなのだろうか、といささか疑問ではある。こう投げかけると、東京大学の廣瀬教授は頷く。
「おっしゃる通り、今まで“主観”は技術の対象にはならなかった。けれど、生身の人間が使うことを想定するVR技術を研究する上で切り離せないのは事実。学問的には大変な部分に踏み込んでいるんです」
つまり、人間にしかできない領域に、科学が日に日に近づいてきているということ。楽しみなような、恐ろしいような……。
取材・文/朝井麻由美 撮影/渡辺秀之
― 感覚系VR技術の最新研究現場を体感【1】 ―
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