音楽ゴーストライターに聞く「佐村河内騒動の影響」
佐村河内守氏の一件で、俄に注目を集めている楽曲制作の「ゴーストライター」。
ポップスの世界でも、名前だけではなかなか売れないミュージシャンが密かなアルバイト的なものとして携わっていることも少なくない。
こうした楽曲のゴーストライティングに携わっている人物に、今回の佐村河内スキャンダルについて複雑な心中を聞いてみた。
――佐村河内氏の騒動は影響ありましたか?
「まだ表立って影響はないけど、今までの発注先が僕らみたいな下請けに出すのを警戒するんじゃないかとちょっとビビってますね。一応、コンスタントに発注してくれる人がいたので大事な定期収入になっていたので」
――ゴーストライティングってどういう感じで依頼されるものなんですか?
「僕がやっているのは、主にアイドルポップスとかですが、最初は業界内の繋がりで制作会社を通じて話が回ってきた感じです。発注者も含めて、僕らの意識としては人を騙そうってやってるわけではなくて、楽曲制作を分業している感じでしょうか。もちろん、僕が作った曲がそのまま発注者の名前で出ますけど」
――仮に作った曲が大ヒットしたら、悔しくはないですか?
「うーん、人によりけりだとは思うけど、僕はそこまで悔しくはないかな。というのも、僕らのような下請けの人間は、コンペとかに出してもそもそも知名度がない段階でコンペを通過しないんですよ。それが発注者の作品として出ると、曲はみんなに聞いてもらえる。それは純粋に嬉しいものなんで」
――発注者の人との関係というのはどんな感じなんですか?
「下請けの人間を自動作曲マシンみたく思ってる人も中にはいるけど、僕の場合は関係は良好ですね。なにしろ、発注者は今でこそ楽曲制作の依頼が多くて下請けに出すこともあるけど、元は自分でヒット作を出した人。だから、こちらとしても一緒に仕事をして勉強になることが多い。ゴーストライターだとは言わないけど、制作現場とかに呼んでもらって人脈作りのきっかけを作ってくれたりもします。だから、ある種の師弟関係にも近いというか、本人はほとんど音楽教育ない一方で、ゴーストしていた新垣隆氏は現代音楽の世界では実力者だったという佐村河内氏のケースとはだいぶ違うと思います」
――なるほど。それにしても、なんで「下請け」的存在が必要なんですかね?
「単純に売れっ子に楽曲制作の依頼が集中するから、そうなると手が回らなくなるんですよ。結局、下請けに頼らざるを得なくなる」
――自分の好きな音楽性との違いで悩むこととかあるんですか?
「仕事の時は、普段自分が好んでいるような曲とは別に、依頼通りに作りますからね。でもそれは仕事なんで別に悩まないです。好きな曲はプライベートでやってますから。逆に、仕事で知ったこととかがプライベートの曲に役立つこともありますよ。言ってみれば、ゲームデザイナーがゲームの全体像をデザインして、僕らはそれに合わせたプログラムを作るプログラマーなんで」
――なるほど。これからもゴーストは続けますか?
「そりゃ確かに、いずれは自分の名前だけで勝負しようと思ってます。でも、まだそのチャンスはない。そんな状況下で、それでも音楽で食える術があるってのは僕にとっては幸せなんです。張り切って『続けますよ!』というような話ではないけど、今はまだ依頼があるならやりますね」
<取材・文/日刊SPA!取材班>
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