爪楊枝混入事件で注目 「底辺YouTuber」って何?
「爪楊枝の底辺YouTuber、逮捕されたってよ!」
東京都内のスーパーやコンビニで、商品棚に並ぶスナック菓子に爪楊枝を“混入”する様子や、堂々と店内で万引きする動画をYouTuberに投稿していた少年(19)が逮捕された1月18日、Twitter上にはこんなつぶやきが溢れていた。
異物混入や万引き行為が「自作自演」であった可能性が高いようだが、少年自身が逃亡経路をロードムービーさながらに実況中継し続けたこともあり、事件は異様な盛り上がりを見せ、炎上騒動のきっかけとなった「爪楊枝の動画」は現在119万4500回(1月22日現在)も再生されているほどだ。
「少年が、YouTubeの動画再生回数で収入を得られる『パートナープログラム』に参加していなかったことはすでに明らかになっているため、彼が小遣い稼ぎを目的としたYouTuberであるとするのは無理がある。ただ、自分に注目が集まるようせっせと動画を上げて、どの動画も視聴者に語り掛けている体裁になっている部分だけ見れば、広義の意味でYouTuberに入るのかも……。まぁ、クオリティも粗いし、『底辺YouTuber』の域は出ていないと思いますよ」
自身も1年前からYouTubeに動画投稿を行っているという30代男性はこう説明する。YouTuberと言ってまず思いつくのは、昨年10月にYouTubeのCMで渋谷の街をジャックしたことでも話題となったHikakinだろう。もはや、YouTubeの枠にとらわれることなく、地上波のテレビ番組やCM出演、さらにはビジネス本の出版など縦横無尽に活躍の場を広げるカリスマと言っていいが、YouTubeだけで年間1億円以上の収入を叩きだす彼に準ずるようなYouTuberは、ごくひと握りだという見方もある。
YouTubeのパートナープログラムが、コミュニティガイドラインを順守すれば、誰でもプログラムに参加できるようになった2012年春以降、一般ユーザーが多数入ってきたのは事実だが、Hikakinのように稼げるクリエイターになりたいとうワナビーYouTuberたちは、今回の爪楊枝事件をどう見ているのか。ネットウォッチャーのHagex氏が話す。
「Hikakinに憧れて入ってきた底辺YouTuberにすれば、今回事件を起こした少年の動画はPVだけ見ればただただ『スゴい』という反応でしょう。彼らの多くは、3ケタも再生されたら大成功と言っていいレベルですからね。そもそもあの少年の上げた動画を見る限り、自己顕示欲が非常に強い人間だと思いますが、それはほかのYouTuberも一緒。少年はアタマは悪くないようなので、技術的に未熟でも、どうやれば見てもらえるかいろいろと考えている節がある。加えて、ネットの場合、失うものがない人間が覚悟を決めれば、ほぼ無敵(笑)。注目されるためのフックが反社会的行為というのは頂けないですが、彼は頭がいいことを自覚していたでしょうし、見せたい自分の像を明確に持っていたはず。そのゴールに向かっていくために、自己紹介を入れたり、キャッチ―なテーマを用意したりさまざまな工夫をしていた。一方で、底辺YouTuberたちのモチベーションも、注目されたいというゴールは彼と同じなのですが、少年ほどの“努力”はしていません(苦笑)。ガジェットを紹介したり、料理を見せたり、最初から表現したいモノを持っている人が、どう見せられるかアプローチを考えて、動画の構成や編集を凝った結果、成功するというパターンは多いが、多くの底辺YouTuberは『有名になりたい』『カネを稼ぎたい』というのが第一にあって、その後にテーマを選ぼうとしている。成功している人たちとアプローチが逆なんです」
カリスマYouTuberが「稼いでいる」と話題になって久しい。だが、実際に食えているYouTuberは「ほぼゼロ」とも……。裾野が広く、マネタイズの仕組みができあがっているブログでさえ、年に1万円さえ稼げない人が8割以上という調査結果が出ているのを考えれば、動画で稼ぐこともまたしかりということなのだろう。Hagex氏が続ける。
「“底辺YouTuber”に共通しているのは、『ラクをして有名になる』『ラクして稼ぎたい』というところ。だから、投稿した動画を見ても、何を伝えたいのかよくわからないものばかり……。通常、動画を制作するときは、まずテーマを据えるわけですが、特に伝えたいこともないのでそれもない。コーラを一気飲みしてみたり、ゲームをやってみたり、動画の演出もカメラは基本フィックスとか、挙げ句は、Hikakin動画のパクリに走る。言い換えれば、彼らには見せたいものが何もないわけです。さらに言うなら、大多数の“底辺YouTuber”たちは、総じて仕事が雑(苦笑)。撮影はたいてい自宅で行うのですが、背景に明日出すゴミ袋が無造作に映り込んでいたり、白い壁をバックにしたつもりが、変な位置で風呂のドアが見切れてたり、そもそも照明が暗かったり……詰めが甘いんです。また、面倒な動画の編集も嫌って、長回しのノーカット撮影が多い。逮捕された少年のほうがよっぽど“努力”していますよ」
昨年12月より、広告レートが下落して稼げなくなったと言われるYouTuber業界。そもそも、まったく稼ぎにありつけなかった“底辺YouTuber”たちは、今回の事件を機にどう身の振り方を考えているのだろうか? <取材・文/日刊SPA!取材班>
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