日本の文化 本当は何がすごいのか【第5回:老舗と日本人】

老舗と日本人(小)

伊勢神宮のおかげ横丁

ファミリービジネスとしての老舗大国・日本

 家族経営、同族経営のファミリービジネスで業歴百年を超える企業を世界に見ると、ヨーロッパ全体では約六千社、アメリカでは八百社あるといわれています。これに対して日本は、なんと一万五千社を上回ります。中には六世紀以来続いている土木建設業の金剛組のような企業もあります。日本のファミリービジネスの老舗企業数は突出しています。
 
 家族経営ないし同族経営については、封建的であるとか、前近代的であるとか、民主主義に反するとか、否定的な評価がもっぱらです。同族経営は業績不振の因となるとか、発展を阻害するとかの論旨を展開する経済評論は、なじみ深いものになっているほどです。
 
 ところが、一万五千社を上回るという日本のファミリービジネス老舗企業を具体的に見ると、このような評価や評論は当てはまりません。自動車業界のトヨタ、建設業界の鹿島建設、竹中組、カメラ業界のキヤノン、そしてパロマ、リンナイ、YKK……それぞれの業界をリードする有力企業が目白押しです。出版業界にいたっては、講談社、新潮社、岩波書店、小学館……と家族経営、同族経営だらけ、といってもいいほどです。マスコミの世界でさえ、読売新聞社、朝日新聞社のように同族経営が大きな位置を占めています。
 
 日本の経済界・産業界を担っている中核は、家族経営、同族経営の老舗企業である、といって過言ではありません。それに批判的な朝日新聞社のような会社でもそうなのですから。この状態は世界的に見れば特異であることも確かです。そしてこのことは、同質的な文化を共有する民族によって共同体を構成している日本の文化的基盤を如実に示しています。

共同体の団結力と連帯感

 それを象徴的に表しているのが、天皇です。天皇という首長的存在があって日本という共同体が確かめられ、その象徴化、つまり精神的な中心に置くことによって求心力が強まり、その家系、血統が継続することによって共同体の団結力が強まり、その連帯感によって共同体を構成する一人ひとりの力が発揮される。これがまさに日本の姿であり、文化的特性です。
 
 家族経営、同族経営の老舗企業は、それぞれに小さな天皇がいて、まさに日本の文化的特性を発揮しているということです。
 
 異なった文化をもつ人間が交わるヨーロッパやアメリカではこうは行きません。そういうところで人間の集団を一つに結び付けるものは、契約以外にはありません。ヨーロッパやアメリカが契約社会である所以がこれであり、契約が正確に履行されることが集団の絆となるのです。これもまた、文化の基盤を示す一つの姿です。
 
 何よりも契約が優先される社会が世界のスタンダードなのではありません。それぞれの文化を基盤にした姿が力を発揮するのには有効なのです。さまざまな姿をそれぞれの文化と認めていくことこそ、グローバルスタンダードでなければなりません。日本においては家族経営、同族経営のファミリービジネスは否定的にとらえるべきではないのです。

(出典/田中英道著『日本の文化 本当は何がすごいのか』育鵬社

【田中英道(たなか・ひでみち)】
東北大学名誉教授。日本国史学会代表。
著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』(いずれも育鵬社)ほか多数。

日本の文化 本当は何がすごいのか

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