「生き抜く覚悟」と「平和の尊さ」を学べる平和祈念展示資料館(6)――国立の「戦争と平和博物館」の必要性

平和祈念展示資料館の概要(同館パンフレットより)

 以上、5回にわたりこの資料館の訪問記を綴ってきたが、実物資料や再現された実物大模型、その解説など展示内容は総じてバランスが取れており、戦争と平和に関する優れた資料館といえる。戦争に関する知識が少ない中学生も含め、広く見学をお勧めしたい。  その上で、いくつか提案したい点がある。 (ア)入場料の有料化の検討  性格が似ている博物館に、厚生労働省が所管し戦没者遺族の援護施策の一環として戦中・戦後の国民生活の労苦を展示している「昭和館」(東京都千代田区)がある。この博物館は、小中学生は入場料を無料として高校生以上を有料としている。平和祈念展示資料館は、すべての人が入場無料であるが、前述した無料配布の『見学ノート』などの印刷費もかかっており、また民間ビルへの賃料の支払いもあり、有料化が検討されてしかるべきでは。貴重な博物館を、財源不足で閉館させてはならないからだ。 (イ)三つのコーナーの映像内容の改訂  兵士、抑留、引揚げの三テーマに関して、それぞれ映像資料を見ることができるコーナーがあり、そこで当時の様子が放映されているのだが、テーマがボケているような気がした。改訂を望みたい。 (ウ)総合目録(カタログ)の制作・販売  現在、内部で検討されているようであるが、常設展示されている様々な資料や展示物、また、これまで行われてきた企画展での資料、さらにスペースの関係で展示できていない資料などを総合目録(カタログ)にして有料(2500円ほど)で販売してはどうか。研究者や関係者が購入すると思える。また、収入を増やす一助となるのではないか。

談話が語りかける意味

 さて、一昨年の平成27(2015)年の夏に、ある談話が出された。以下、本稿のテーマに関連する部分のみを抜粋してみたい。  ①先の大戦で、「祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の、遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなられた方々」など「三百万余の同胞の命が失われ」たこと。  ②「戦後、六百万人を超える引揚者が、アジア太平洋の各地から」帰還し、「日本再建の原動力となった」こと。  ③「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えて」いること。  ④「私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、命をつなぐことができた。そして、現在の私たちの世代、さらに次の世代へと、未来をつないでいく」大切さ。  ⑤また「敵として熾烈に戦った、米国、豪州、欧州諸国をはじめ」、たくさんの国々から「恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられた」それらのことを含め、「私たちは、未来へと語り継いでいかなければならない。歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす。その大きな責任」があること。  この談話は、安倍晋三内閣総理大臣によって発表された「戦後70年談話」である。  よく練られた談話であり、対外的には、この談話をもって先の大戦に関して一つの区切りとする意味合いを持っている。今後の内閣において、これ以上の談話はもはや不必要であろう。しかし、相変わらず蒸し返そうとしている一部の国があるのは、残念だ。 「戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超える」今日にあって、私たちの両親や祖父母の世代が体験した戦争の労苦は、確実に風化している。この戦争体験を次の世代に語り継いでいく上で、この資料館がになう意義は今後も大きいと思える。  その上で、前記した厚生労働省が所管している昭和館や、同じく戦傷病者等の援護施策の一環として設立された「しょうけい館」も統合した、国立の「戦争と平和博物館」が将来、開館されること願いたい。(了)   (取材・文=育鵬社編集部M)
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