カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第19講 ・バイオマスの再生スパンを越える近代」

近代化の象徴である蒸気機関車(ターナー作)

近代化の象徴である蒸気機関車(ターナー作)

ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                    

限定されていたエネルギー使用

 富とはいったい何でしょうか。我々が真っ先に、連想するものはカネです。カネはモノやサービスと交換されてはじめて、その効用を発します。モノやサービスは資源エネルギーによって生み出されます。人間の労働を可能にする食糧資源、工場の稼働を可能にする石炭・石油・ガスなどの燃料資源、これらの資源エネルギーが富をもたらします。  産業革命以前の時代、人間が獲得することのできるエネルギーは限定されていました。土地一単位が生み出すエネルギーに利用できる生物体量のバイオマス(Biomass)を生成するには時間が掛かります。田畑の作物にしても、家畜や魚にしても、瞬時に育つわけではありません。穀物ならば、収穫に通常一年は掛かります。  当時、太陽エネルギーが生み出すバイオマスの再生スパンを越えて、エネルギーを獲得することはできませんでした。人類は太陽エネルギーが与えるバイオマスの範囲の中で、食糧や素材などの富を再生産していたのです。

太陽と地球が貯蓄した「富」

  しかし、近代において、人類は産業革命により、石炭・石油などの化石燃料を動力エネルギーとして利用する装置を発明します。蒸気機関や火力発電によって、人類は、地下に堆積したエネルギーを一挙に得て、バイオマスの再生スパンを越えた生産能力を持ちはじめます。  産業革命の歴史上の意義や画期とは、人類がバイオマスの再生スパンの制約から解き放たれ、自由なエネルギー資源の利用を可能にしたことにあります。18世紀末の産業革命以降、欧米諸国では、GDPの数値が急激に拡大しています。この上昇は、地下に埋蔵されていた化石燃料という巨大な資源を生産の中に組み入れたことによって生じた急変です。  化石燃料が、何万年という時間をかけて、動植物などの死骸が地中に堆積し、地熱などによって生成されたエネルギーであることを考えるならば、産業革命以降の人々が過去に蓄積されたバイオマスをまとめて遡及利用(後食い)していることになります。太陽や地球が「貯蓄」していた富を近代人が強引に引きずり出し、貪り食った当然の結果が、欧米GDPの急上昇になって現れているのです。  産業革命によって、化石燃料エネルギーを獲得した近代は、それまでの時代とは比較にならない大きな富を享受していきます。「革命」というと、急激な変化が起こったように聞こえますが、その変化は18世紀前半から、100年間の長期に渡る持続的なもので、機械工学の改良・発明を積み上げていきながら、産業に実践・応用されていきます。その分野は主に綿工業、製鉄業で、動力源に石炭蒸気力が用いられました。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。
世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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