カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第20講・18世紀のベンチャー・キャピタル①」

解体される戦艦テメレール号(ターナー作)

解体される戦艦テメレール号(ターナー作)

ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   

ビジネス・モデルの転換

 イギリスでは既に16-17世紀に、毛織物を手工業で生産するモデルが構築されていましたが、より早く、安く、大量に生産できるような、効率的で資本の回転率の良い新しいモデルが必要とされていました。  17世紀、イギリスがインドに進出すると画期的な商品に出会います。「キャラコ」と呼ばれるインド産の綿布です。安くて良いインド産の綿布は軽くて丈夫、通気性もよく、シャツなどに製品化しやすいものでした。綿花を栽培できない寒いヨーロッパで、衣料は毛織物(ウール)製品が主流でした。ウールは重くてゴワゴワとかさばり、加工が困難でした。  何よりも、綿製品がウール製品と決定的に違うのはウォッシャブル、水洗いできることでした。ヨーロッパ人は水洗いできない不潔なウール衣料を着ていたために病原菌に侵されやすく、とくに免疫力のない乳幼児の死亡率が高かったのです。  18世紀以降、綿製品がヨーロッパで流通すると、乳幼児の死亡率が劇的に改善されます。洗濯された清潔な綿製品により、病原菌を媒介するノミやダニから身を守れるようになったのです。  こうなると、イギリスなどのウール製品業者は潰滅状態に陥り、彼らは生き残りをかけて、ビジネス・モデルの転換を図らなければなりませんでした。イギリスはインド産「キャラコ」に対抗するために、アメリカ西部のカリブ海諸島やアメリカ南部に奴隷制プランテーション(大農園)を経営し、インド産綿花に代わる安い原料を栽培します。

新しい動力源

 原綿コストを下げることに成功したイギリスは、次の段階として、製造コストを下げるために紡績機や織機の機械化を行います。綿花は羊毛よりも強く、機械紡績や機械織布に適しており、生産を機械化するインセンティブとなりました。 18世紀の前半、これらの機械を動かしていたのは人力や水力でした。人力はコストがかかり過ぎ、水力は安定供給が難しく、立地条件が制約されました。  そして、新しい動力源の可能性が模索されはじめました。18世紀初頭に、ニューコメンが蒸気機関を発明し、石炭を採掘する炭坑の排水用ポンプとして使われていました。既に、蒸気力が熱動力になることは分かっていたのです。ポンプのような蒸気力のピストンの上下運動を、紡績、研磨、製粉などに使えるよう、円運動に転換させる装置の開発が望まれました。  ジェームズ・ワットは在野の腕の良い機械技術者で、グラスゴー大学天文学部の計測器調整の仕事を請け負っていました。1757年、大学内にワットの技工研究室を設けるよう手助けしたのが当時、同大学の教授職にあったアダム・スミスでした。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。
世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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