新入社員なら入社式前に知っておきたい!吉田松陰に学ぶ「志の立て方」

なぜ私たちは勉強するのか?

<文/佐藤芳直>

 私は十数年間、山口県の萩市で吉田松陰セミナーを開いている。そこで最初に伝える言葉は今でも変わっていない。吉田松陰先生はなぜ勉強するかということについて、次のように言っている。

 学とは人たるゆえんを学ぶなり(「松下村塾記」)

 この言葉は、松下村塾の根幹であると思っている。学問とは、人間とはいかにあるべきか、いかに生きるべきかを学ぶことである。

吉田松陰像(山口県文書館蔵)

吉田松陰像(山口県文書館蔵)

吉田松陰はたった1年しか教えていなかった


 私が松陰先生に興味を持ち始めたのは高校2年生の時だった。司馬遼太郎さんの『翔ぶが如く』や『世に棲む日日』を読んだときには衝撃を受けた。

 松陰先生は29歳でその生涯を終えたが、松下村塾で講義を行ったのはわずか1年1カ月だった。その短期間に松陰先生に学んだ約80名の塾生の中から、明治維新の導火線が生まれ、そこに火が付いた。その1年1カ月に松陰先生は何を教えたのだろう、どういうことを教えれば、明治維新という大業を成した人物が生まれたのだろうということが不思議でならなかった。

 高校2年生が終わると、私は仙台から萩に向かった。そして、実際に松下村塾を見て、私は腰を抜かすほど驚いた。こんなに小さな、こんなに狭い場所で日本が生まれたのかと感動した。こんな狭い空間から今の日本という世界が広がっていったのだとすれば、この日本はやはり未来に継承していかなければいけないと、なぜか強く思った。

 百数十年前に世界の勢力図が大きく変わる中で、日本という国をなくしてはならないと思う者たちによって、維新は成し遂げられた。その当時の人々の思いを私たちは胸において、この日本という国が世界の中で一定の位置を保ち続けて、別に主導的立場ではなくてもいいが、独特の国、独立した国として未来に続いていかなければならない。深い感動の思いで16歳の私は夕闇の松下村塾に佇んだ。

吉田松陰が教えたこと


 その時から松陰と名の付く本は書簡集から何から飛びついて読むようになった。そうすると、いろいろなことが分かってきた。一体全体、吉田松陰という人は何を教えたのか。なぜ松陰先生はあれだけの人たちを生み出すことができたのか。松陰先生は塾生たちに、学ぶという入り口で次の言葉を与えた。

 志を立ててもって万事の源となす(「士規七則」)

 志を立てるというのは、世のため人のために生きるという思い、簡潔に言えば、誰かの役に立つように生きたいと決めることである。松陰先生は、「志を立てよ」と言った。そして、その志の立て方とその志をどのように遂げていくかということを塾生たちに個別に伝えた。

志とは何か?


 志とは一言で言えば利他の心を生き方の中心に置くことである。働くとは誰かの役に立つこと、それが仕事である。そのことにおける同志が社員と経営者であれば、そんな素晴らしい関係性はないであろう。

 松陰先生はそれを江戸時代の末期にやった。封建制度で身分社会の中で身分の差なく、塾生同士が励まし合う関係であることを第一とした。だからこそあれだけ続々と門弟が同志として世に出て行き、長州藩という一つの藩を大きな方向に導く力になっていったのであろう。

現代人にとって「ビジョン」とは何か?


 志という言葉は、現代では「ビジョン」という言葉に訳した方が分かりやすいかもしれない。このビジョンというのは一体何だろうか。人間にとってのビジョンと何か。

 私は人間にとってのビジョンを「離己利他」という言葉で伝えている。人間のビジョンは利他にある。誰かのための自分であるということに気付くことこそがビジョンである。

 今の時代、持つべきビジョンに悩み、追われる人が多い。先が見えない時代でもある。日本人はこれまで多くの困難に直面した歴史を持つ。振り返ってみれば、古代は壬申の乱、中世では応仁の乱もあり、当時の首都である京都が焼け野原になり、本当に荒廃した時代もあった。そして明治維新で幕藩体制から天皇を中心とした国体への変革があった。その後、日清・日露戦争の勝利があり、大東亜戦争の敗北があり、今に至る。さまざまな変革期の経験が、伝承として記憶として私たちの心に刻み込まれている。

人間としての原点をしっかり見つめよう


 私たちは今、恐らく数百年来の価値観の変換期の中にいる。だから先が見えない。この先が見えない時こそ、ビジョンをしっかり打ち出すべきである。このビジョンというのは、将来的なことをひたすら口にするということではなくて、私たちの人間としての原点をしっかり見つめようということだ。

 人間のビジョンは不変である。誰かの役に立つ「利他」という一点において考えればいい。そしてできれば自分が好きなこと、もしくは自分が得意なことをして誰かの役に立てれば、それ以上の幸せなことはないだろう。

【佐藤芳直(さとう・よしなお)】
S・Yワークス代表取締役。1958年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、船井総合研究所に入社。以降、コンサルティングの第一線で活躍し、多くの一流企業を生み出した。2006年同社常務取締役を退任、株式会社S・Yワークスを創業。最新刊は『なぜ世界は日本化するのか』(育鵬社)。

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