旧石器時代「岩宿遺跡」発見の人間模様(2)――工夫の余地がある岩宿博物館の展示
大きなマンモスゾウの全身骨格が展示されているが
まず、岩宿博物館を見学した。岩宿遺跡の近くに建てられている歴史博物館であり、平成4(1992)年に「笠懸野岩宿文化資料館」としてオープンした。初代館長は、明治大学の考古学者であり、同大学の学長を務めた戸沢充則(1932~2012)だ。平成18年(2006)年より現名称となり、同遺跡や各地の遺跡からの出土品を収蔵・展示している。 岩宿博物館の常設展示を覗くと、メインステージとおぼしき場所に、大きなマンモスゾウの全身骨格が設置されている。しかし、この全身骨格は出土がシベリアであり複製である。 複製であるのはまったく構わないが、なぜシベリア出土のマンモスゾウなのか。 寒い氷河期を代表する大型動物としてのマンモスゾウは、日本では北海道で発見されているが、本州には渡ってきていないとのことだ。それを最も目立つ場所に設置している意図が分からない。これを見た人は、岩宿遺跡にマンモスゾウがいたと錯覚しかねない。 例えば、長野県信濃町の野尻湖畔に建つ野尻湖ナウマンゾウ博物館では、その地で発掘された化石をもとにした実物大のナウマンゾウの復元像が置かれており、必然性がある。歴史博物館には、タイムスリップや臨場感、疑似体験が必要
歴史博物館は、研究者の研究に資する資料を展示することも大事だが、地元の小中学生に歴史の楽しさを伝えるという大きな役割を担っている。 それならば岩宿遺跡の最大の眼目は、戦前まで旧石器時代はなかったとされていた通念を、一人の在野の青年の大発見によって覆したことであり、岩宿博物館は、その点を最大にアピールするのが重要なのではないか。 もちろん、その青年が行商をしながら考古学への関心をもってついに発見したという業績はパネルで紹介されているのだが、興味を持っていなければ見過ごしてしまうような展示だ。 かつて、鹿児島県鹿児島市にある「維新ふるさと館」を訪ねたことがある。そこには「維新体感ホール」という展示があり、西郷隆盛、大久保利通らの等身大の人形ロボットが、音響や映像とともに明治維新のドラマ「維新への道」を演じている。 今から150年ほど前の明治維新の時代に、タイムスリップさせてくれる演出であり、また、維新の英傑を数多く輩出した鹿児島・加治屋町の復元された町並みの散策も疑似体験できるようになっており、好評を博している。 このタイムスリップや臨場感、疑似体験が、小中学生のみならず来場している一般の大人にも歴史の楽しさを伝えてくれる。 そうならば、この博物館においても関東ローム層を再現し、一人の青年がどのように旧石器を発見したのか、あるいは、その後の調査団の発掘がどのように行われたのかを、臨場感をもって再現した演出が欲しいところだ。 大金をかけずとも、地元企業の協賛を仰いだりして工夫すれば、できるはずだ。 それを見た小中学生が刺激を受け、将来、考古学者となって大発見をしてくれれば安い投資である。(続く) (文責=育鵬社編集部M)ハッシュタグ
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