世界文化遺産から読み解く世界史【第35回:世界最大の博物館――大英博物館】
“イギリスの時代”の到来
イギリスは、1558年にエリザベス女王が即位して、その後、スペインの無敵艦隊をアルマートの海戦で破り、その繁栄が始まりました。イギリスが無敵艦隊を破ったのは、海賊上がりの海軍の強さがあったからです。海軍の力が世界制覇に結びついたのです。スペインやポルトガルにかわって海外の各地を植民地経営し、インドから東南アジア、中国に及ぶ支配圏を築くのです。アメリカ、オーストラリアなど、これまで手のつけられていなかった大陸にも進出していきました。 オランダは、1603年に東インド会社をつくり、イギリスと競争しました。しかし、オランダは没落していき、17世紀という時代がイギリスの時代となっていきました。 産業革命を経て、中国に進出し、19世紀のアヘン戦争まで、インド、中国などアジアの制覇が、イギリスの帝国主義の発展を支えていたのです。 イギリスがスペインにかわってこれだけ伸びたのは、スペインやポルトガルにいたユダヤ人が、国外追放によって、イギリスやオランダに移民したこともその要因の一つでしょう。マラーノと呼ばれた、商業や金融に長けたユダヤ人が移動したことで、商業取引の力も、移ったということなのです。 オランダが1590年頃から、イギリスが1656年から正式に移住を認めました。彼らは貿易商や金貸しという分野で長い伝統と経験を持っていました。ですから、戦費の調達など、王室財政を支える上で、非常に大きな力となったのです。ユダヤ人は財政面で植民地主義を支える柱となったのです。植民地支配の産物としての大英博物館
そうしたイギリスの植民地主義の伸張を象徴するのが世界最大の博物館である大英博物館です(しかしこれは世界文化遺産ではありません)。 大英博物館には、東西の美術品や書籍や略奪品などが約800万点あるといわれています。そのうち展示されているものは15万点にすぎません。これだけのものがイギリスによって集められたということ自体、いかにイギリスが植民地支配によって、そうしたものを取得あるいは略奪してきたかということを示しているのです。 イギリスは、20世紀前半まで、アメリカがそれに取ってかわるまで、世界の中心に君臨していたのです。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』ほか多数。
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