世界文化遺産から読み解く世界史【第58回:嘆きの壁――世界の衝突の象徴】
エルサレムを訪れることの意味
嘆きの壁という、ユダヤ人の気持ちを表しているような壁があります。ソロモン王の神殿は前6世紀半ばにバビロニアによって破壊されました。それが前6世紀末頃に再建されましたが、今度はローマ軍よって破壊されました。かろうじて神殿を囲む西側の壁の一部が残りました。それが嘆きの壁です。この壁の前でユダヤ人たちが嘆きを繰り返している姿をわれわれはいまでも見ることができます。 一方では、ここからムハンマドが天界に旅立ちアッラーの啓示を受けたといわれる聖なる岩というものがあります。そして、その岩を守るために金色に輝くドーム(岩のドーム)が建てられました。ここはいま、メッカやメディナにつぐイスラム教第三の聖地になっています。 このドームが建っている「神殿の丘」は、ソロモン王が神殿を建てた場所とされています。イエス・キリストが亡くなったときには、その神殿の垂れ幕が裂けたといいます。ですから、この丘はユダヤ教、キリスト教双方の聖地として考えられているのです。 この丘に聖墳墓聖堂というものがあります。イエス・キリストはゴルゴダの丘で十字架にかけられましたが、聖墳墓聖堂はその磔刑された場所に建てられています。これはローマ帝国時代の325年頃に皇帝コンスタンティヌスがキリスト教を許可して、ここに建てたといわれます。 エルサレムに訪れることは、日本を除いた世界の嘆きのるつぼの中に入ることでもあると実感せざるを得ません。エルサレムは現在イスラエルが統治しているといってもいいのですが、エルサレムという空間そのものが、世界の衝突の一つの象徴となっています。いまだにその問題は解決されていないのです。 そういう意味で、われわれがエルサレムを訪れるということは、西洋を見ることでもありますし、イスラム教を含めた世界の宗教の舞台を見ることでもあります。ここを訪れる人々は、否が応でもそのことを意識せざるを得ないのです。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史』『日本が世界で輝く時代』ほか多数。ハッシュタグ
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