世界文化遺産から読み解く世界史【第60回:タリバンに破壊された仏像――バーミヤン渓谷の文化的景観と遺跡】

ワットマハータートの仏頭(タイ:アユタヤ:縮小)

ワットマハータートの仏頭(タイ:アユタヤ)

仏教が根づかなかった地の仏教遺跡

 仏教は、むしろインド以外の周辺の国々に大きな影響を与えています。例えば、仏像は最初にガンダーラ地方でつくられました。ガンダーラの場所は、いまのアフガニスタンです。ここにアレキサンダー大王が古代ヘレニズム文化を持ち込んで、偶像崇拝の習慣を人々に根づかせました。これは古代ギリシア・古代ローマが宗教に人間像を取り入れて、それを崇拝する形をとっていたわけですが、それを仏教に取り入れたのがガンダーラの仏教彫刻でした。  その偶像崇拝の形を最もよく表しているのがアフガニスタンのバーミヤン渓谷にある巨大な仏教彫刻でした。バーミヤンの近郊には、1世紀から石窟がつくられ始め、高さ55メートルの西大仏をはじめ、多くの遺跡が残されています。バーミヤンの仏教文化は繁栄を極め、630年に唐の玄奘が訪れたときには、僧院に数千人の僧がいたといいます。しかし、この地は後にイスラム勢力の支配下となり、仏教徒の共同体は消滅しました。そして、イスラム教徒によって破壊された上に、2001年には、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンによって、完全に破壊されてしまいました。  仏教が根づかなかった地の仏教遺跡が示しているものを、日本の仏教とはどこが違うのかという目で見てみることも重要です。  それは例えば、タイのアユタヤの仏像を見ると、これもすべて同じ釈迦像として並んでいます。一つの型が決まっているのです。それはなぜかというと、この土地の仏教が、共同宗教として受け入れられていて、個人宗教という要素が少ないからなのです。つまり、人々が一緒に釈迦に祈る、釈迦を祭るということは考えられていても、個々の人々の内面的な個人性にまで仏教が深められてはいないということです。それは、スリランカやインドネシアにもいえることです。日本の仏教は個人宗教として受け入れられたのに対し、これらの国々では、仏教が共同宗教化して受け入れられているのです。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史』『日本が世界で輝く時代』ほか多数。
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