都市の強靭化: 六本木ヒルズのエネルギー・イノベーション3
巨大地震直後でも活動し続ける強靭な「六本木ヒルズ」
そもそも首都直下地震の折りには、首都圏の電力供給量の多くが棄損すると同時に、電線網も大きな被害を受け、結果的に極めて広い範囲で電力供給が途絶え、停電となることが危惧されており、これが今、首都直下地震対策における最大の懸案事項の一つとなっている。 ところが六本木ヒルズは、外部からの電力供給がすべて途絶えてもなお都市活動を継続する能力を備えているのである。というよりもそれ以上に、周辺に「余剰電力」を供給する能力すら保持している。 なぜなら六本木ヒルズは、自身の活動にとって必要な電力と熱を自己調達できるシステムを完備しているからである。 つまり、激しい直下地震直後、首都圏があらかた「ブラックアウト」してしまっても、六本木ヒルズは、都市活動を継続させ、煌こう々こうと明かりをともし続けることができるのである。 これが、巨大地震後の「首都復興」において、極めて強大な意義を持つであろうことは明らかだ。 巨大地震によって破壊された大都市のど真ん中で無傷で生き残ることができるエリアが残存すれば、そこが、地震直後には避難や救援・救護の基地となる。 そこが復旧活動の基地となるとともに、東京における「日常」の民間都市活動を再駆動させる基地となる。 都市の「核」が強靭であることは、その都市全体の回復の速度を抜本的に高めることを通して、その都市全体の「強靭性」の確保に直結するのである。六本木ヒルズエネルギーセンター
さて、六本木ヒルズの「電力」と「熱」は、その地下に設置された「六本木ヒルズエネルギーセンター」から供給されている。 このセンターは、六本木ヒルズの再開発の時に計画、設計されたもので、(一部の施設を除いた)すべての施設の電力と熱を賄う、独立採算のエネルギー企業だ。 このセンターの第一の特徴は、最新式のシステムによって「電力」のみならず「熱」を同時に、効率的に供給するというところにある。 ここで採用されているシステムは「コージェネレーション」システム(CGS)と呼ばれるもの。 それは、5750kwのガスエンジン発電機が5台(ならびに、予備の4000 kw の非常用発電機が3台)でガスを燃やして「火力発電」を行うと同時に、その過程で生ずる「排熱」を利用して、同地区に「熱」を供給しようとする、近年大きく注目されているイノベーティブなシステムだ。 電力は無論、それぞれの施設の電気施設を駆動するのに活用されるが、「熱」は地区内各施設の「暖房」や「給湯」のみならず、「冷房」や「冷水」を生成するためにも活用されている。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。ハッシュタグ
ハッシュタグ
おすすめ記事