都市の強靭化: 六本木ヒルズのエネルギー・イノベーション7

都市強靭化に向けた、都市行政とエネルギー行政のコラボレーション

 この補助事業は、都市インフラ形成の視点から、BCD形成のためのエネルギーの「導管シ ステム」の整備に公費を投入するというもの。  具体的には今、政府における「都市行政」では、都市を活性化するために作られた法律(都 市再生特別措置法)によって、東京、大阪、名古屋などの大都市内に、合計 59 の「都市再生緊 急整備地域」が指定されている(平成 28 年 11 月 30 日現在)。  だが、この地域では、都市の安全 を確保するためのプラン(都市再生安全確保計画)の策定が推奨されてきた。  これが、都心部のBCD形成を促す政府の取り組みの概要なのだが、その枠組みの中で今、「エネルギー供給 施設」も取り扱われるようになったのである。  そして上述の、BCD形成のための自立分散型 エネルギーシステムの整備に、都市行政の枠組みでの国費の投入が可能となったのである。  ちなみにこれまで、都市行政とエネルギー行政は「縦割り」の文脈の中で、融合的に進めて いくことが困難であった。そんな中、この度の取り組みは両者の壁を一部取り払うという側面 を持っている。  これはいわば、都市型の巨大地震に対する危機感の高まりが、「脆弱性」の根 源的な原因の一つであった「縦割り行政」に風穴を開けた格好となったと解釈することもでき るだろう。

「強靭化」による都市の発展

 さて、こうした制度の枠組みの中で今、六本木以外でも、東京の「日本橋」(室町地区)を はじめとしたいくつかの地区で、同様の「強靭」な自立分散型エネルギーシステムの面的整備 が、国費補助の下で進められようとしている。  こうした都市エネルギーインフラの形成は、その地区、ならびに、その都市全体の強靭性を 抜本的に向上させることは繰り返し述べた通りだ。  ただしその効果は、それにとどまらない。それは実にさまざまな波及効果をもたらす。すでに指摘したことも含め、以下にその概要を 整理することとしよう。  第一に、「排熱」を利用するCGSは、エネルギー効率が一般的なシステムよりも高い。し たがって、都市強靭化は「省エネルギー化」をもたらす。  第二に、省エネルギーはそのまま、地球温暖化ガスの排出量の削減を意味する。したがって、 CGSの導入は、「地球温暖化対策」「大気汚染対策」に貢献する。  第三に、地域それ自体の強靭化は、その地区における企業活動の事業継続性を抜本的に向上 させることから、地区内部の各企業の「強靭性」を高め、それを通して「企業競争力」「企業 価値」を高める。  第四に、以上を通して、その地区自体の「資産価値」の増進にも大きく寄与する。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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