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小説『ばくち打ち』連載開始にあたって

日本におけるカジノ合法化の動き

 どうやら日本でも、ゲーム賭博の場、すなわちカジノが合法化される見通しとなってきた。

超党派のカジノ議連が発足、カジノ合法化は観光立国の起爆剤

  日本でのカジノ合法化などを目指す超党派の「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」は14日、参院議員会館で設立総会を開き、民主、自民、公明、社民、国民新、みんなの各党から74人の議員が参加した。議連は民主党のカジノ合法化法案原案をもとに検討、早ければ秋の臨時国会に議員立法で提出(※注)、成立を目指す。(高橋昌之)
(中略)
 カジノ合法化をめぐっては一部に「青少年に悪影響を与える」「多重債務者を増やす」などの懸念もあるが、法案では施設の立ち入りやゲームへの参加者を限定し、こうした懸念を払拭する。現に世界各国のカジノでは、施設の出入りは厳しく管理されている。
 カジノは世界の大半の国で合法化され、アジアでもシンガポールやマカオが成功を収めており、カジノを合法化していない日本の方が、国際的には「特異な存在」となっている。カジノは運営がきちんと行われれば観光立国の起爆剤となりうる。日本には歴史、伝統、文化のほか、温泉などの観光資源があり、カジノエンターテインメントが加われば、日本に大きな利益をもたらす可能性がある。(msn産経ニュース 2010.4.14 )

※注……この報道の後、9月に民主党代表選が行われた影響で、法案上程は2011年1月からの通常国会にずれ込んだという。

 これまでの日本で、公明正大にゲーム賭博をおこなえる場所、すなわちカジノが非合法とされてきた理由は明白だった。競馬・競輪・競艇・オートといった公営賭博の利権を守るためである。公営賭博ではないが、パチンコの利権も守らなくちゃならん。

 なんでやねん? 公営賭博やパチンコの利権なんて、どうでもええやんけ。

 と素朴な疑問を発するのは、非国民というもの。

 公営賭博およびパチンコには、官公庁による利権の縄張り(シマ割り)が確立している。競馬は農林水産庁に、競輪は経済産業省に、競艇は国土交通省に、そしてパチンコは警察庁に、といった具合だ。

 日本の公営競走における控除率は25%超。パチンコは良心的なホールで8%。ぼったくりの店(ハコ)だと、控除がいくらになるかわからない。

 現在の日本では、賭博愛好者にそういった無茶苦茶な環境が強いられているのである。

 一方、国連に加盟する大多数の国では、カジノの存在が法的に認められる。公認カジノにおけるゲームの平均控除率は、どこでも1%未満だ。

 これでは勝負にならない。日本でカジノが公認されれば、官公庁およびそれにぶら下がる族議員たちの利権が一発ですっ飛んでしまう。

 それゆえ、これまでの日本では先進国(OECD加盟国)としてはほとんど唯一(例外はアイルランド)、カジノが公認されてこなかった。日本の合法賭博における収奪の仕組みは、拙著『越境者たち』(集英社文庫)をご参照願いたい。『越境者たち』は、数年前に『週刊SPA!』本誌で連載させていただいたものである。

「失われた20年」を無策ですごし、日本国家は疲弊し尽くした。デフレ・スパイラルにどっぷりと浸かりこみ、瀕死の様相を呈す。

 国家の存続が問われているのだ。霞が関と永田町だけに、美味しい想いをしてもらい続けるわけには、もういかない。空洞化し、硬直してしまった産業構造に、ちいさなものといえども風穴を開けなければ、日本に未来はないだろう。

 新しい産業の創出は、喫緊の課題だ。そこでカジノ産業に目が向けられた。

警察主導の違法行為を問うてはならない

 じつは20年以上も昔から、日本でカジノを合法化しようとする動きはあった。しかし諸官公庁、とりわけ警察庁の強い抵抗にあい、そういった動きは水面下に追いやられてきた。

 ところが、このままいけば日本は財政面で沈没することが誰の眼にも明らかとなってしまった。

 ギリシャは、公的債務が対GDP比115%で、実質的に国家破綻した。日本の公的債務は、公表されている分だけで対GDP比197%(’10年現在)。目が回るような数字だろう。しかも隠れ債務まで含めれば、対GDP比でとっくの昔に200%を超している、というのは事情通たちに共通した認識だという。

 景気・財政(税収)・雇用のどの面からも、カジノ公認化は有効な対策となりうる。そこで水面下の動きが一気に表面化した。それが引用記事にある「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」の立ち上げだった。

 しかし、パチンコ利権を持つ警察庁の抵抗は執拗だ。

 日本では警察の不興を買うと、あとでとんでもないしっぺ返しをくらう。

 それゆえ誰かが、猫の首に鈴をつけなければならなかった。

 霞が関と永田町の一部の住人たちだけに甘い汁を吸わせ続け、このまま国家が緩慢に破綻していくのを傍観しているわけにもいくまい。なにしろ国家が破綻すれば、そこの住民たちが一番の被害者となるのである。つまり、当事者問題だった。

 そこで考え出されたのが、法的には違法なパチンコでの換金を合法化し、その権利をすべて警察庁に差し上げましょう、その代わり、他のゲーム賭博の公認化を認めてください、オマワリさんお願いします、とする案である。

カジノ議連きょう発足 パチンコ換金、合法化検討

 カジノ合法化法案の成立を目指し14日に発足する超党派の「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」は13日、警察の裁量で換金が事実上認められているパチンコについてもカジノ法案と同じ仕組みで立法化していく方針も固めた。(中略)
 パチンコは現在、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風適法)」で「遊技場」と位置づけられ、獲得賞球は、日用品などに交換することになっている。しかし、金地金などの特殊景品に交換し、外部の景品交換所で現金化されることが多い。現金化は「事実上の賭博」にあたるものの、警察が裁量で「黙認」しているのが実態だ。(以下略)(asahi.com 2010.4.14 )

 これまで警察によって「指導」されてきた「パチンコの換金」は、じつは違法だったのだ、とまず認知し、でもこれからは合法化して差し上げますよ、という法案である。

違法行為を摘発するはずの警察がおこなってきた違法行為を、ここでは問うまい。それを問うてしまえば、日本の産業界に風穴を開けられないのだから。

カジノは日本経済の救世主となるか?

 以上の経過があり、近い将来に、どうやら日本でも、虐げられてきた賭博愛好者たちが、公明正大に賭博ゲームを打てるようになりそうだ。まっこと、恭賀の至り。

 さて、日本における賭博産業の規模とは、どの程度のものなのだろうか? 以下、すべて年間の概算である。

 中央競馬(JRA)が2.8兆円、公営競走(地方競馬・競輪・競艇・オート)が合わせて2.3兆円、宝くじが1兆円、のみ屋やカジノ・クラブあるいは野球賭博といった非合法賭博が5000億円(非合法の部分は「有識者」による’EDUCATED GUESS’の数字)。

 これに警察利権のパチンコが加わる。駅前にあるパチンコ・ホールだからといってバカにしてはいけない。台メーカーまで含めれば、パチンコは年間25兆円産業なのだ。これは、国内自動車産業と同じ規模である。

 現存する日本の賭博産業の年間規模を総計してみると、約31.6兆円。ぎゃっ!

 さてさて、日本に公認のカジノが立ち上げられるとするなら、そこにはどれくらいの金が流れ込むのであろうか?

 諸説ある。

 最終的には、現在の日本の賭博産業規模の1割強、つまり3兆~4兆円はカジノに流れるようになるのではないか、とわたしは踏んでいる。これは(噂されるように)10件のライセンスが出て、メガカジノがすべてオープンになった段階を想定した時点での推計だ。

 前述したように、競馬・競輪等の控除が25%。パチンコがすくなくとも8%。宝くじなど、53.9%の控除である。

 そんなバカバカしい賭博環境に、控除1%未満のゲーム賭博業界が出現するのだから、これはもう既存の賭博産業は勝負にならない。賭博愛好者は大量にカジノに流れる。

 控除が低い賭博とは、当たり前の話だが打ち手に勝つチャンスが増大することを意味する。

 なんで、25%も天引きされる博奕(ばくち)をわざわざ打たにゃあかんのや。

 涙なしには語れないほど構造的に収奪され続けてきた日本の賭博愛好者たちは、必ずや喜び勇んで大量に膨大にカジノに流れるはずだ、とわたしなど考えるのだが、いかがか?

 日本でカジノが公認されれば、年間4兆円産業の出現である。すくなく見積もっても、3兆円産業の登場であろう。

 華やかな(と誤解されている)出版業界の経済規模が、雑誌も含めて年間2兆8000億円。それ以上の経済規模を持つ新産業が、突如立ち上がるのだ。

 景気面、財政面、雇用面で、瀕死の日本社会へのカンフル剤となりうるかもしれない。

 もっとも、日本の現状はひどすぎて、このカンフル剤だけでは、とても生き残れないとわたしは思うのだが、それでもなにも手を打たないよりかは、はるかによろしかろう。

欲望が裸形で曝されるカジノ

 カジノが提供するゲーム賭博で糊口(ここう)を凌ぐようになって、そろそろわたしは40年目を迎える。

 次週から、『ばくち打ち』と題した小説を、『日刊SPA!』で連載させていただく。長いものになりそうだ。

 人間の欲望が裸形で曝されるカジノという「合意の略奪闘争」の場で、見てきたこと、考えてきたこと、体験してきたこと等を、物語の中で語っていこうと構想している。

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2万AUD(約180万円)の一手を仕留めた瞬間。刺すか、刺されるか。だから博奕は面白い。
それで博奕はやめられない。隣席で万歳をしているのは、某文芸誌の編集長O氏。