僕たちが見た“売春”の現在 【鈴木大介×荻上チキ】

鈴木大介×荻上チキ対談「絶望を減らす作業をしよう――」Vol.1

荻上チキ氏 2010年頃から、出会い系サイトや出会い喫茶を通じ、荻上チキ氏はワリキリ(売春)をする女性100人以上にインタビュー調査を行った。そこで集められた膨大なデータと証言が一冊の本にまとめられた。そのタイトルは、『彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力』(扶桑社)。

 DV、精神疾患、家庭環境、雇用不足、男女格差、借金など、社会から斥けられた“彼女”たちが、「今よりマシになるため」に、あるいは自身の「居場所」を求め、出会い系に引き寄せられていく。そこには、現代の売春問題の確かな一構造が浮かび上がる。

 偶然にも、この本の発売と期を同じくして、ルポライターの鈴木大介氏が『援デリの少女たち』(宝島社)を上梓。こちらは、6年半にわたり、売春組織「援デリ」を密着取材。「援デリ」という“ビジネスモデル”の時代(法規制)に応じた変貌とともに、その激しい世界で逞しく生き抜く少女たちの姿を活写した。

 鈴木氏は、『援デリの少女たち』の帯文を荻上氏に依頼。一方の荻上氏は『彼女たちの売春(ワリキリ)』のエピローグで鈴木氏を「頼りにしていた存在」と語っている。

 ともに、現代の売春をテーマにしつつも、荻上氏が見たのは個人での売春、鈴木氏が追ったのはチームでの、そして少女たちの売春。2人がみた光景は重なりつつも、同時にまったく異なる色合いをみせる。彼らは何を見たのか――。

◆組織の売春とフリーの売春 それぞれが見た“光景”

チキ:『彼女たちの売春(ワリキリ)』での取材で僕は、組織ではなく、あくまでデカフェ(出会い喫茶)や出会い系サイトメインで、フリーで売春をしている女性を対象としました。援デリ、裏デリ、風俗、立ちんぼ、あるいは監禁されながら売春をしている女の子など、本書では触れなかった形態もあるし、すべてのデータを紹介できているわけでもない。だから、この本を読み、これが「現代の売春のすべてだ」と思われてしまうなら、それは違う。

 だからこそ、取材しながら、常に大介さんのことはずっと頭にありました。エピローグでも書かせていただいたんですが、自分が見ているものとは別の世界、さらに裏の世界を掘り下げていく大介さんがいたから、僕は表側で広く数を集めまくることができた。大介さんの存在はとても有り難いんです。

鈴木:いや、本を読ませていただいて思ったのは、実は俺が見ているのは表の世界で、チキさんが見ているほうが裏の世界ですよ。僕が取材した援デリの少女たちは、15歳16歳で家出をしてきて、生きるために、ある短期間、激しく売春をする。でも、それは彼女たちにとっては一時の売春、通過点ともいえる。

 デカフェは、普通にネオン看板が出ていて、世間の目に触れるところにありますが、そこでワリキリをする女性――チキさんが見てきた女性は、売春が日常になってしまっている。その先の可能性というのを考えると、正直、救いようのなさを感じたのは、正直、チキさんが取材した女性たちのほうだと思いました。

チキ:大介さんが取材した援デリの少女たちは、一人ひとりが抱える問題はヘビーだけれど、「少女」であるぶん、若干の希望みたいなのが読み取れるからかもしれませんね。僕が取材した女性たちは成人がメインで、それなりに適応してしまっているので、「その後の日常」が地続きであり、より、こじれてしまっていると思われるのかもしれない。

鈴木: 俺ね、今、むちゃくちゃ反省してるんです。というのは、俺は、自分で自分にバイアスをかけて、取材対象を選んでいるなって。自分には売春に対する自己責任論を払拭したいという思いが強くあって、だから、売春しなくてもすむ人生を送ってきた子――文字が書ける、漢字も読める、自分でメールも打てる、コミュニケーション能力もある程度ある、もともとは企業に勤めていました、という女性の売春を肯定したくなかった。「自分が取材している少女たちと一緒にしないでくれ!」という気持ちがあったんですよね。俺自身が、チキさんが取材したようなワリキリ女性に「自己責任論」をなすりつけてきたことに気づかされた。チキさんが描いたのは、自分が排除した、目を背けてきたど真ん中でしたから。

チキ:人には得意不得意というのがあって、逆に僕は、大介さんが取材しているような子と仲良くなれない気がします。

鈴木:そうですか?

チキ:「ヤンキー怖い」とかそういうレベルで。

鈴木:(笑)。

チキ:それは冗談として、援デリの少女のその先にデカフェでワリキリをするという可能性はあるわけで、分けられるものではないとは思いますよ。

鈴木:分けられるものではないし、どちらも救わなくてはならないと思います。しかし、抱えている問題の困難さというと、売春が日常になってしまった女性のほうがやはり難しいと思うんです。未成年で家出して援デリで売春してっていう少女たちの物語は、もちろん一人ひとり異なりますが、凝縮していくと、ある程度ケースワークができるんです。でも、チキさんが会ってきた人って、ものすごいバックグラウンドが多様ですよね。

 また、少女たちの場合は環境でなんとかできる部分は大きいけれど、成人になり適応してしまっていると、本人が変わらないとどうにもならないところがある。環境を変えるのと本人を変えるのと、どちらが難しいかといったら、本人を変えるほうが難しい。

チキ:環境がその人をつくるという側面はありますから、ワリキリをするにいたる様々な要因――貧困や虐待や、精神疾患など社会からの斥力をひとつひとつキャンセルすることで、そういった個人がさらに生まれないような社会を作れるかもしれない。雇用の問題や家族関係の問題を解きほぐせば、少なくともワリキリを今よりしなくてすむようになるかもしれない。

 僕はあらゆる売春を根絶させようとは思っていません。「売春=可哀想」と固定化されるのもまた、偏りがありますし。一方で、社会が有効な手立てをまるで打てていないからこそ、本人が嫌だと思っていたとしても、入り口で止めることができる子すら放置してしまう。まずそういうケースをひとつ、またひとつと減らしていかないと、より複雑に絡まりあった問題を解きほぐしていくところまで、とてもたどり着けませんからね。

鈴木:確かに。どこから手をつけるかということですよね。

チキ:逆に最悪のケースというのは、「根絶させよう」と叫びつつ、即規制、即摘発というルートのみに頼ることだということだと思います。

⇒Vol.2『「望まない売春」を減らすことはできるか?』に続く
http://nikkan-spa.jp/345862



【鈴木大介】
援デリの少女たちすずきだいすけ●ルポライター。「犯罪する側の論理」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心に取材活動を続ける。著作に、『家のない少女たち 10代家出少女18人の壮絶な性と生』(宝島社)、『出会い系のシングルマザーたち―欲望と貧困のはざまで』(朝日新聞出版)、『家のない少年たち 親に望まれなかった少年の容赦なきサバイバル』(太田出版)、『フツーじゃない彼女。』(宝島社)

【荻上チキ】
彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力おぎうえちき●評論家・編集者。政治経済から社会問題まで幅広いジャンルで、取材・評論活動を行う。著作に『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか 絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想』(幻冬舎新書)、『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)、『セックスメディア30年史欲望の革命児たち』(ちくま新書)など

<構成/鈴木靖子(本誌) 撮影/山川修一(本誌)>

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